アラカルト
37000番さまへのお礼
37000番を踏んでいただき、ありがとうございます!
**********
「土門さん!聞いてるの?」
「あ、ああ。……聞いてる」
マリコは今にも泣きそうな、不安そうな顔で土門をじっと見つめている。
「何か答えなければ…」そう思うのだが、頭が上手く働かない。
せっかく十数年越しの願いが叶ったというのに、土門は嬉しさよりもまず拍子抜けしてしまった。
生死をさまよう大怪我を負い、意識を失っていた土門が目覚めたのが3日前。
今朝、ようやく一般病棟に移り、そこで待っていたのがマリコだった。
しばらく土門の身の回りの整理などを細々と世話した後で、マリコはベッドの脇に立ち、こう言った。
「土門さんが意識を失ったとき…。本当に頭が真っ白になったわ。何も考えられなくて、時間が止まったみたいだった。そのとき、ようやく気づいたの。私には土門さんが必要よ。土門さんが……大切なの」
ようやく長年の想いが実った瞬間だった。
マリコの言葉に、気持ちが通じ合うとは「ああ、こんなに簡単なことだったのか」と、土門は妙に冷静だった。
「土門さん!」
「ああ……」
「ねぇ…。もしかして、まだどこか具合が……まさか!頭!?」
「バカ言え!俺はまともだ!」
「だって、それなら………」
マリコはそっと土門の手に触れた。
―――――トクン…。
「?」
土門の心臓が大きく跳ねた。
「土門さん、私の前から居なくならないで……」
―――――トクン…。
「もう何年一緒に居ると思ってるんだ?」
「そんなこと言って!今回は……」
「戻ってきただろう?ちゃんと……」
そう、戻ってきた。
ちゃんと、……榊の傍に。
―――――トクン…。
まただ。
また、心臓が大きく動いた。
「そんな風にはぐらかさないで!お願い……ちゃんと、誓って」
「誓う?」
「そう!私の傍に居るって……」
『榊の傍に居る』
それはもう土門にとっては誓いでも何でもない。
当たり前のことだ。
榊の傍で、榊を守る。
だから、今、誓うとするなら……。
「分かった。誓う。だが、傍にいることじゃない」
「……どういうこと?」
マリコの瞳が揺れる。
「お前の傍にいることは、とっくの昔に誓ってるんでな。だから、それとは別に一言だけ誓う」
土門はゆっくりと上半身を起こすと、マリコの腕を掴み、引き寄せた。
目線を同じ高さに合わせると、自然と視線が絡み合う。
―――――トクン…。
これまでの永い時間、土門の中で凍ったままの想いが、ようやく雪解けを迎えようとしていた。
誓い、伝える。
「お前が、好きだ」
fin.