アラカルト



31000番さまへのお礼



31000番を踏んでいただき、ありがとうございます!



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冬はつとめて。
雪の降りたるは言ふべきにもあらず、霜のいと白きも、またさらでもいと寒きに、火など急ぎおこして、炭持て渡るも、いとつきづきし。
昼になりて、ぬるくゆるびもていけば、火桶の火も、白き灰がちになりてわろし。

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クリスマスを間近に控えた週末。
マリコは一通の手紙を受け取った。
差出人は梅乃宮紅子。
かつて四姉妹の魔女が関わる事件に遭遇した際、一度は容疑者と目されたうちの一人だ。
しかし、のちに事件解決に一役買い、それ以降はこうして時折マリコに手紙を送付して来る。

この日送られてきた手紙は、これまでと違い招待状と書かれていた。
クリスマス休暇を梅乃宮家の別荘で過ごさないか?というものだった。
本来は紅子たち姉妹で過ごす予定だったが、それぞれに別の予定が立て込んでしまったらしい。
この日のために用意した食材などを無駄にしてしまうくらいなら、誰かに使ってほしい…とマリコに連絡してきたようだ。
マリコ自身はもともと非番に当たっていたのだが、そうなると他のメンバーは仕事のため、行くことはできない。


『誰を誘おうかしら?』

頭に最初に浮かぶ人物は分かりきっていたが、休みは…とれないだろう。
それでも、一縷の望みをかけて、マリコはスマホを取り出した。



梅乃宮家の別荘は、有名な別荘地の一角にあった。
こじんまりとした建物で、中に入ると最低限の家具だけが配置された、シンプルで落ち着いた空間だったが…。

「すごいな……」
「素敵ね……」

二人の目を惹いたのは、部屋の中央に聳える暖炉だった。
そのまま上の煙突まで続いている、本格的な暖炉のようだ。

「こんな煙突なら、本当にサンタクロースがやってきそうだな」
「そうね。でも、髭は煤で真っ黒でしょうけど」

ひとしきり、二人は笑い合う。
火をいれなくても、空調だけで室内は十分に暖かいのだが、明日の朝は火をくべてみようと土門は思った。



余談ではあるが…。
自炊に一抹の不安を抱えていた土門であったが、冷蔵庫の中には温めるだけで食べられる色とりどりの料理が用意されていた。
その様子に、土門が思わず胸を撫で下ろしたことはマリコには秘密である。



その夜、二人は久しぶりにワインと美味しい食事をゆっくりと楽しんだ。

そして、寒さを和らげるためと。
閉ざされた別荘に二人きり…という高揚感に、二人は朝方近くまでぬくもりを確かめ合っていた。


早朝、幾ばくも眠ることなく、マリコはベッドを抜け出した。
窓を少しだけ開くと、身を切るような冷気に襲われる。

「寒いっ!」

憮然とした声が聞こえたかと思うと、マリコの体はあっという間に逞しい腕にくるまれる。
その温かさと重みに囚われ、マリコは再び目を閉じた。



次に目覚めたとき、マリコは隣に土門の姿がないことに気づいた。
上着を羽織り、リビングのドアを開けると……。


暖炉では薪が激しく燃えていた。
橙色の炎が揺らめき、パチッ、パチッと火の粉の弾ける音が鳴る。

「暖かいわね。それに何故かしら?炎の色が優しい……」

マリコは暖炉の前に敷かれた、毛足の長いラグマットにペタりと座る。

「詩人みたいだな。似合わんぞ?」
「……………」

土門は、ふい、と顔を背けてしまったマリコの隣に腰を下ろした。
尚もそっぽを向くマリコを後ろから抱き締める。
そして、まるで『機嫌を直してくれ』と言うように、その髪に頬を寄せた。

「……何だか大型犬になつかれてるみたいだわ」

そんな台詞を言う割に、マリコの声は楽しげに弾んでいた。



二人は朝食の後の時間を、寄り添い、手を握り、ただ傍にいることに費やした。
気がつけば暖炉の火種は消えかかり、薪は白く灰になっている。

『白き灰がちになりてわろし……か』

土門は有名な一節を思い出していた。

だが、こんな風に薪が白く灰になるまで、二人のときを過ごすことができた。
互いが互いのためだけに存在する時間。
二人きりの空間。
それは土門にとっては、何ものにも変えがたい至福の時間だ。

「土門さん?」
「『わろし』どころか『上無かみなし(最高)』だな……」

休暇のタイムリミットまであとわずか。
残り少ない時間を、土門はマリコの体温を感じることに使うと決めた。

「榊……」
「土門さん……」

囁く声は『めぐしうつくし』―――――




fin.



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