アラカルト
27000番さまへのお礼
27000番を踏んでいただき、ありがとうございます!
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春はあけぼの。
やうやうしろくなりゆく山ぎは、すこしあかりて、紫だちたる雲のほそくたなびきたる。
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屋上の扉を開くと、東の空はもう白みはじめていた。
少し前までは刺すように冷たかった風も、今日は爽やかさを感じるほどの温もりを含んでいる。
「とうとう朝までかかっちまったな……」
土門はため息混じりで、塀に半身を凭れかける。
「そうね……。疲れたけれど、やっと結果が分かって良かったわ!」
マリコの瞳は輝いているが、表情に疲労の色は隠せない。
つい十分前に、二人は犯人を追い詰める決定的な結果を得られたのだ。
「お前、今日はこのまま帰れ。クマがすごいぞ……」
「土門さんだって同じようなものでしょ?事件を最後まで見届けないうちは帰れないわよ!」
マリコは憤懣やる方ないといった様子で、土門に喰ってかかる。
「俺は男だからいいんだ。……ったく、しょうのない奴だな。捜査会議まで……3時間はあるな。よし!」
腕時計で時間を確認すると、土門は持っていた缶コーヒーのプルタブを外す。
そして、マリコへ手渡した。
「ありがとう!」
「さっさと飲んじまえ。会議が始まる前に家まで送ってやる。着替えとシャワーくらい浴びたいだろう?」
「えっ…いいの?土門さんは?」
「お前を送ったら、俺も一度帰って支度をする。出勤するついでにお前を拾ってやるよ」
事も無げに言うが、その時間、土門は仮眠をとる予定だったはずだ。
「いいわよ!タクシーで帰るから……」
遠慮するマリコに、土門は良い考えを思い付いた。
「だったら、俺にシャワーを貸してくれ。署に置いてある着替えを持って行く。それならあちこち移動せずに済むしな」
「べ、別にいいけど……」
何となくそれだけでは済まないような気もするが、マリコは目をつぶることにした。
「そうと決まれば、行くぞ!」
「待って!まだコーヒー飲んでないのに……」
土門は口をつけようとしているマリコのコーヒーをひょいと奪う。
そして、コーヒーを飲もうと小さく開いたマリコの唇へ、代わりに自分の唇を押し当てた。
「!?」
「二人でのモーニングコーヒーは、次の非番までお預けだな」
くくっと笑う土門はぐびりとコーヒーを飲み干す。
マリコは赤い顔を見せないよう、山並みへと視線を向けた。
少しずつ昇り始める太陽に、徐々に空が明るさを増していく。
乳白色が混ざり出した薄墨色の空では、淡い紫の雲が山頂の辺りを細く長く覆っていた。
マリコはその美しい光景に目を奪われた。
「きれい………」
「ああ…」
思いがけずそんな春の朝焼けを目にできたこと、そしてそれを土門と共有できること。
そんな些細なことにも、マリコは幸せを感じた。
ましてや、土門は『いうべきにもあらず』だろう。
fin.