アラカルト(誕生石ver.)



19000番さまへのお礼



19000番を踏んでいただき、ありがとうございます!


*****


マリコはmicroscopeの扉を開いた。

「おや、榊さま。いらっしゃいませ」

いつもの穏やかな声に続いて、今夜はもう一声続いた。

「にゃー」

「あらっ!?マスター、この猫は?」
「ここの飼い猫なんですよ。いつも営業中はどこかへ遊びに行っているのですが、珍しく今夜は出かけないようで……」
「へえ…。名前は何て言うんです?」
マリコは膝に手を添えてしゃがみこむと、猫に視線を合わせる。
「オパールです」
「オパール?天然石の?」
「はい」

マスターはオパールを抱き上げると、ライトの側に移動する。

「この子の瞳、どうですか?」
「あら!本当。オパールみたいに色々な色に反射してるわ!」
「ええ。そこからこの名前にしたんですよ」
そう言うと、マスターはいたずらっぽく微笑む。

「私も抱いてもいいですか?」
「もちろんです」
マスターはオパールをマリコの腕に乗せた。

「オパール。……本当に瞳が綺麗ね」
「にゃー」

マスターは一匹と一人を残し、別の客をもてなすためにその場を離れた。
しばらくすると二人(?)の声が漏れ聞こえてきた。

「ねぇ、オパール。聞いてくれる?」
「にゃー」
「土門さんとね、喧嘩しちゃったの…」
「にゃ」
「謝ったほうがいい、わよね……」
「にゃ、にゃー」

マリコはじっとオパールの顔を見つめる。
やがてその七色に煌めく瞳に引き込まれそうになる。
そうしているうちに、徐々に心が軽くなるような、そんな気がした。

「ど、もん、さん……」
いつの間にか、マリコはカウンターテーブルに突っ伏し、眠ってしまった。


「おや……」
土門と何かあったのだろう…、そう推測したマスターはマリコに求められるまま、いつもより多めに酒を出してしまったことを後悔した。
マリコの肩にブランケットをかけると、迎えを呼ぶために電話を手にした。


十分後、カランと来店をつげる鈴音とともに現れたのは土門だった。

「マスター、連絡ありがとうございます。榊は?」
土門が店内を見渡すと、カウンターの一番奥の席が衝立ついたてで仕切られていた。
他の客からは見えないように配慮してくれたのだろう。
土門はマスターに心から感謝した。

衝立をのぞくと、そこにはマリコ以外の珍客がいた。

「…………」
「にゃー」
「マスター?」
「その子はうちの飼い猫でオパールと言います。ずっと榊さんの話し相手になっていたんですよ」

土門は苦笑した。
恐らくこの猫相手に、自分への文句でも言っていたに違いない。

「すまんな、お前にも迷惑かけて……」

土門がオパールの首をくすぐる。
喉をならし目を細めていたオパールだったが、気づくとじっと土門を見ていた。

土門はその虹色に変化する瞳に息を飲んだ。
同時に、心の凝りのようなものが溶け出していくような…そんな不思議な感じを受けた。


「土門さま。私が榊さまに少々すすめすぎてしまったようで、申し訳ありません」
「いいえ、マスターのせいではありませんよ。原因はわかっています。こちらこそ、ご迷惑をおかけしました」
土門はマスターに軽く頭を下げる。
そして、マリコを背負うと、店を出て行った。


「オパール、お疲れさまでした。やはりお前の目には不思議な力があるのかもしれませんね……」
「にゃー」

オパール石と同じ癒しの力。
それは目に見えるものだけではない。
ささくれだった心や、淋しさ、哀しみさえ取りのぞき、癒してくれる……。



車へと向かう途中、背中に感じる熱と息づかいに、土門は思わず呟いた。

「俺も言い過ぎたな。すまん……」

独り言のはずだったのに、首に回された手にぎゅっと力が籠る。
背後からの『ごめんなさい』に土門は足を早めた。

一秒でも早くその顔を見たい。
一秒でも早くその頬に触れたい……そう、思ったから。




fin.




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