アラカルト(誕生石ver.)
18000番さまへのお礼
18000番を踏んでいただき、ありがとうございます!
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「今、時間あるか?」
朝一番、出勤と同時に土門からメッセージが届いた。
何だろう?訝しみながらも、マリコはyesの返信を送る。
即座に届いた次のメッセージに、バッグをだけを置き、マリコは屋上へ向かった。
「おはよう、土門さん。何かあったの?」
土門は無言で紙袋をマリコに差し出す。
「なに?」
「開けてみろ」
「?」
マリコが中身をのぞくと、細長い箱が一つ入っていた。
取り出して蓋をあけると、中には鮮やかな蒼い石の付いた帯留めが入っていた。
「……帯留め?」
「昨日、うちに届いた。送り主はお前のお袋さんだ」
「え?母さん!?なんで……」
「この手紙が同封されていた」
追加で渡された便箋には、いずみの文字が綴られていた。
『土門さん
突然こんなものを送って、驚かせてごめんなさいね。
これは、私が主人と結納を交わしたときにつけていた帯留めです。
この帯留めの蒼玉は主人と一緒に探して選び、贈られたものなの。
私たちはそのころに未来を誓い合って、紆余曲折あったけれど、これまで二人で過ごしてきました。
土門さん。
あなたの手から、マリコにこの蒼玉を渡してやってください。
もう帯留めなんて使う機会はあまりないでしょうから、二人で相談して、好きなように加工してちょうだいね。
慈愛、誠実、高潔、そんな意味を持つこの石があなたたち二人を見守ってくれることを、主人と二人、願っています。
土門さん。
あんな子だけれど、どうか、どうか。
よろしくお願いします。』
『榊いずみ』と締めくくられていた。
「そろそろケジメをつけろ、そういうことか?」
「……………」
マリコはじっと腕を組んで考え込む。
「榊?」
「絶体、違うわ!土門さん、騙されたらダメよ!」
そういうと、マリコはどこかへ電話をかける。
「もしもし、父さん?ねえ、最近、母さんから何かねだられてない?」
『なんだい?突然、藪から棒に……』
「いいから!新しい帯留めの話とかしてなかった?」
『ああ!そういえば……」
「やっぱり!ありがとう、父さん。またね」
『え?ちょ、まあちゃん!?』
「マリちゃんから?」
「……うん。ばれてるみたいだよ?」
「やぁねぇ。疑り深くて。誰に似たのかしら?」
いづみは、伊知郎をちらりと見る。
「仕方ないでしょ?半分はまあちゃんの想像どおりなんだから」
伊知郎はその視線を避ける。
「半分だなんて、心外よ!マリちゃんの為が8割、私は2割よ」
腰に手を当てむくれる妻に、伊知郎はただただ苦笑し、財布の中身を心配するのだった。
「やっぱり、そうだった!」
「どういうことだ?」
「母さんたら、新しい帯留めが欲しいから、古いものを私に送って寄越したのよ。もお!」
マリコは頬を膨らませる。
「……そうか?」
「そうよ!」
尚も、マリコはぷんぷん怒っている。
「榊……」
「なに?」
「この石、どうする?」
「どうする……って」
土門は、何の前触れもなくマリコの左手を持ち上げた。
「指輪で……いいか?」
「……土門さん?」
「きっかけや理由はどうでもいい。俺がこの石の指輪をお前に贈りたいと思った。それだけじゃぁ、駄目か?」
マリコは驚きに小さく口を開く。
そして、瞳には薄い膜が張り、徐々に唇が弧を描く。
真実はきっと、このブルーサファイア色の空のように。
どこまでも、どこまでも高く澄んでいる。
fin.