アラカルト(誕生石ver.)
13000番さまへのお礼コメント
13000番を踏んでいただき、ありがとうございます!
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「つぅ……」
「土門さん、まだ行ってないの?」
背後からマリコの呆れたような声がかかる。
振り返った土門は、腫れ気味の頬を抑え、苦い薬でも飲まされたような顔をしている。
「虫歯は放っておいても治らないわよ?早く、歯医者へ行ったほうがいいわ」
というマリコに引きずられるようにして、土門は今、歯科医院の入ったビルの前に立っている。
そびえ立つビルに腰の引ける土門の隣で、しかし、マリコは別の場所へと視線を向けていた。
このビル一階のテナントだ。
一面ガラス張りのお洒落な店舗は、ジュエリーショップだった。
だが、マリコはすぐに視線を戻し『まずは虫歯ね!』と土門をビルの中へと引っ張っていった。
その日以降、土門は歯科医院に通院している。
「土門さん、今日も歯医者なの?」
「ん?まぁな…。歯を削る道具をな、取りに行くんだ」
「歯を削る道具?」
「いや、気にするな。それより、今夜、うちに来れるか?」
「ええ。大丈夫よ」
「そうか。それなら後で連絡しろ」
頷くマリコを確認すると、土門は世話しない様子でその場を立ち去った。
その夜、誘われるままにマリコは土門の部屋で一夜を過ごした。
翌朝、目覚めたマリコは左手に固い違和感を感じた。
「?」
手を持ち上げてみると、その小指には華奢なリングがはまっていた。
「早めのホワイトデーだ」
隣から、すでに目覚めていた土門の声がした。
「歯を削る道具って、ダイヤモンドよね……」
中央に埋め込まれたキラリと耀く小さな石に、マリコは胸を締めつけられそうになる。
「土門さん……」
マリコはピンキーリングのはまった左手を、大事そうに右手で覆う。
「ありがとう」
「次は…。次は、お前も付き合え」
「え?」
「例の歯医者の一階だ。そろそろ隣の指の分も必要だろう?」
照れ隠しなのか、土門はイタズラっぽい瞳をマリコへ向ける。
「…………」
返事はなくとも、マリコのその顔を見れば……。
今日も帰すことはできそうにない。
土門はもう一度マリコをシーツに沈めた。
リングの煌めく左手を、大きな右手で絡めとったまま。
fin.