アラカルト(誕生石ver.)



12000番さまへのお礼コメント



12000番を踏んでいただき、ありがとうございます!


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――― bar『microscope』にて。

「マスター。お会計をお願いします」
「かしこまりました。…今夜、土門さまは?」
「仕事が終わらないみたいです」
マリコは苦笑する。
「左様ですか…。ところで榊さま、先程から雨が降っておりますが?」
「え?雨?」
「よろしければ、傘をお持ちしましょうか?」
「ありがとうございます」

会計を済ませたマリコは、マスターが傘を用意している間に化粧室へと席を立った。
身なりを整え戻ると、見慣れた背中がマスターと談笑していた。
「土門さん?」
「ちょうど帰るところらしいな?」
「ええ。仕事は?」
「交代したところだ。これから戻るんでな。お前を拾って行こうと寄った」
「わざわざ?」
マリコはじーっと大きな瞳を向ける。
土門は目をそらし、雨も降ってるしな、と呟く。
「時間がないんだ。行くぞ」
「待って!マスター、ご馳走さまでした!」
マリコは早足で土門に続く。

「ほら、傘」
土門はマリコへ鮮やかなブルーの傘を渡す。
柄には傘と同じブルーの石が嵌め込まれたストラップがついている。
どうみても女性ものだ。
マリコは傘と土門を見比べる。
「途中で寄った店にはそれぐらいしかなかったんだ。気に入らんかもしれんが、我慢しろ」
「ううん…。ありがとう」
「残念だが、お前にはやらん」
「え?」
「この車の置き傘にするつもりだ」
「…そう」
明らかにしゅんとするマリコ。
土門はマリコに見えないところで苦笑する。
『お前のほかに、誰が使うっていうんだ…』
そう喉まで出かかったが、土門は口には出さず、マリコの手から傘を取り戻す。
そしてストラップを外すと、代わりにマリコの手に落とした。

「俺が使うときにそれは邪魔だ。お前にやる。……車まで走るぞ」
土門は傘を開くと、マリコの肩をぐっと引き寄せた。
鮮やかな青い傘の行方を見守っていたマスターは微笑み、店内へと戻る。

「あのストラップについていたのは、アクアマリンでしたね。無意識なのか、それとも…。目の離せないお客様だ」

【アクアマリン】
幸せな結婚生活の象徴。結婚前の女性へ贈るのに最適な石とされている。



fin.

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