アラカルト(誕生石ver.)
11000番さまへのお礼コメント
カウンター11000番を踏んでいただき、ありがとうございます!
*****
「キレイな紫のグラスね……」
マリコは目の前に置かれたグラスに見とれる。
中身は無色透明なリキュールなので、余計にグラスの美しさが際立つ。
「こちらはアメジストのグラスなんですよ」
マスターは洗い上がったグラスを磨きながらマリコへ説明する。
「すまん!待たせたな」
カランという涼やかなベルの音と伴に土門が現れた。
「大丈夫よ。マスターに話し相手になってもらってたから」
マスターは軽く会釈すると、土門のオーダーを聞き、その場を離れた。
「土門さん、これアメジストのグラスなんですって。キレイね……」
そう話すマリコの瞳も、店内のライトを反射して煌めく。
今夜偶然見つけたこのbarは、程よい客数と落ち着いた雰囲気に、洗練されたマスター。
そして何より『microscope』という店の名前がマリコは気に入った。
「アメジストには悪酔いしない、という意味があるらしいからな。グラスにはうってつけなんだろう」
土門はジャケットを隣の椅子にかけ、ネクタイを緩める。
その仕草がとても好きなマリコは、流れるような土門の指の動きを追う。
「もっとも、俺には関係ないがな」
「どうして?」
「悪酔いなんてしないさ。お前と一緒だからな……」
カウンター奥のマスターは聞こえないフリをする……。
今夜のお客様は、なかなか内に情熱を秘めた方のようだ。
そんな二人へと、土門のグラスの上には艶やかな紫のエディブルフラワーが添えられていた。
「可愛らしい花ね。もしかして…食用花かしら?」
「ええ。よくご存じですね」
マスターはグラスを磨く手を止め、マリコに優しい視線を向ける。
「食用?食べられる花か?」
土門は可憐な紫の華をじっと見つめる。
「何だか、食べるのがもったいないな……」
その土門の感想に、マスターはにっこり微笑む。
「確かに……。ですが、美しいうちに食すことも、華への礼儀かもしれませんよ、お客さま」
土門はしばらくその言葉の意味をはかりかねていたが、やがて大きく目を見開く。
「では、ごゆっくり」
マスターはカウンターの奥へと姿を消した。
「土門さん?」
隣のマリコが怪訝そうに土門を見る。
「……なんでもない」
そういうと、マリコのグラスに自分のグラスを当てる。
カチンと響く音に、エディブルフラワーが揺れる。
「美しいうちに食すのも、礼儀か……。言ってくれる」
土門は隣でグラスを傾けるマリコを盗み見る。
今宵、彼女の首を彩るスカーフは、エディブルフラワーと同じ色をしていた。
fin.
12/12ページ