純つるん(笑)



「まいどー」

早月の声に振り向いたマリコは、すぐに首をかしげた。

「先生?私、何か鑑定をお願いしていましたか?」

「今日はマリコさんに渡したいものがあって来たの。はい、これ」

渡されたのは和菓子屋の紙袋。

「抹茶味の水羊羹。マリコさん、好き?」

「ええ。好き…ですけど」

「よかった!実はね、昨日テレビでマリコさんそっくりの女優さんを見たのよ!」

「それ、私も見ました。マリコさんに双子の姉妹がいるのかと思っちゃいました!」

亜美も興奮した様子で会話に加わる。

「だよね!それで、その女優さんが『ほどよい甘さの、つるんとしたデザートが好き』って言ってね、抹茶の水羊羹を美味しそうに食べてたんだよね」

「純つるん、ですよね?」

亜美と早月は、ププッと笑う。
マリコはイマイチ状況が飲み込めない。

「あの、それで?」

「あ、うん。それでね、私も水羊羹を食べたくなって、どうせならテレビの話もしながらマリコさんや、皆で食べようと思って持ってきたの」

マリコはようやく合点がいった。

「それではお茶をいれましょう」

宇佐見もその番組を見ていたのだろうか。
純つるんのあたりから、笑いを噛み殺していた。

抹茶羊羹と宇佐見のいれてくれたほうじ茶で一服しながら、話題はマリコとそっくりな女優の話に戻る。

「薄紫のレースワンピースがステキでしたよね」

「ねー。それより亜美ちゃん、彼女の手を見た?」

「もちろん、見ました!輝いてましたよね✨」

「あれ…右手だけど、薬指だったじゃない?何かちょっと意味深よね?」

マリコは慌てて「つるん!」と水羊羹を飲み込むと、席を立ち、そそくさと自分の鑑定室へ戻ってしまった。



「失礼します!」

ちょうどそこへ土門が顔を出した。

「土門さん、一緒に羊羹食べません?」

「すみません。ちょっと急いでますので、また」

土門は早月に会釈すると、そのままマリコの部屋に消えていく。


「榊、鑑定を………どうした?」

マリコは顔を赤くして、何かを握りしめている。

「土門さん、右手でも薬指に指輪はめたら意味深かしら?」

「ん?誰が何を言ったか知らんが、コソコソするとかえってヘンに思われるぞ」

「…うん」

「堂々としてろ」

そういうと土門はマリコが握っていたものを奪い、マリコの手にはめた。

「第一、これは“意味深な”指輪だろ?」

マリコの右手の薬指に輝くのは、今年の誕生日に土門から送られた銀の指輪。

「憶測されるのが嫌なら、すぐにでも左手の分を用意するが?どうする?」

土門の手がマリコの左手をそっと握る。

水羊羹のほどよい甘さも好きだけれど、土門さんとの甘い時間はもっと…。

「コクン」と頷いたかもしれない仕草は、土門の大きな体に隠されてしまった。
真実を知る者は、ただ一人。



fin.


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