春心
結局この日、これ以降土門とマリコが顔を合わせることはなかった。土門はマリコからの連絡を待つと腹を決め、マリコはひたすら土門を避けていたのだ。
しかしそんなことをいつまでも続けられる訳もなく、翌日には二人は揃って藤倉に呼び出された。微妙な距離を空けて並び立つ二人に、藤倉は眉根を寄せる。
「お前たち、ケンカでもしたのか?」
「「いいえ」」
視線も合わせないくせに、息ぴったりにハモる二人を見て、藤倉は苦笑した。
「痴話喧嘩なら……ここでやれ」
「「え?」」
またしても重なる声を背に、藤倉はさっさと扉に向かう。
「1時間したら戻る。土門、榊、それまでに決着をつけておけ。自分の気持ちから目を背けてウジウジ悩む暇があるなら、被害者のために働け。それが我々の使命だろう」
それだけ言い捨てると藤倉は出ていった。
「あいつら、子どもか」
呆れ顔の藤倉だが、その口元に笑みが浮かんでいることを、本人は気づいているのかいないのか。
いずれにしろ、図体のでかい男と頭でっかちな女は、どんな答えを出すのだろうか。