春心
マリコが屋上の扉を半分開けると、土門の姿が見えた。
「ど…」
「土門さん!」
マリコの声に被せるように、別人が土門の名を呼んだ。
「好きです!」
「え!?」
驚きに目一杯扉を開けたマリコが見たのは、向き合う土門と亜美。
「ご、ごめんなさい」
マリコは疑問と驚愕と…よくわからない感情に背中を押され、屋上を逃げ出してしまった。
「待て、榊!」
追いかけようとする土門を引き止めたのは亜美だ。
「土門さん、返事を聞かせてください」
「返事も何も…」
土門は呆れた顔で亜美を見る。
「エイプリルフールだろうが」
「あ、バレてました?」
亜美はチロッと舌を出す。
「何だってこんな面倒なことをする?」
今の一言には、やや憤りが含まれていた。
「だって。土門さん、マリコさんのこと好きですよね?」
「はぁ?」
「誤魔化しても駄目ですよ。二人を見ていれば誰だって気づきますから。気づいていないのは、マリコさん本人くらいじゃないですか?」
「……………」
土門は苦笑するしかない。
だが、それは土門がマリコに対する気持ちを認めたことになる。
「もう見ている方も焦れったくて仕方ないので、お二人にはくっついてもらおうと思って」
「余計なお世話だ」
「でも、マリコさんの本心がわかる絶好のチャンスだと思いませんか?駄目なら、エイプリルフールネタで誤魔化せるし」
「榊の、本心…」
それだけ呟くと、土門は黙ってしまった。
どこをどう歩いたのか、気がつけばマリコは自分の鑑定室にいた。
ぼんやりした頭が、勝手に先刻のシーンを再生する。
「好きです」
「好きです」
「好きです」
繰り返すうち、まるで電波の悪いラジオのように脳内はノイズが酷くなる。
「亜美ちゃん、本当に…?」
これまでそんな様子は見えなかった。
もちろん、恋愛オンチなマリコが気づかなかっただけかもしれないが。
もし、もし本当に亜美ちゃんが土門さんのことを好きだとしたら。
「私はどうすれば…」
マリコは肩を落とし、崩れるように椅子に座りこんだ。目の前のPCの画面は真っ暗で、まるでマリコの行く先を暗示しているかのようだった。
1/6ページ