二人暮らし
二人は洋食屋でオムライスとカツレツの食事を終えると、その足で土門少尉の自宅へやってきた。
「美味しかったですね」
「ああ。少し食べ過ぎた」
土門少尉は軍服の腹回りを気にする。
その様子が何だか可愛らしくて、マリコはくすっと笑った。
「ん?何かおかしなことを言ったか?」
「いいえ。さあ、何を運べばいいんですか?」
「昨夜のうちにまとめておいた。廊下に置いてある袋と風呂敷だ」
「マリコさんは風呂敷を頼む」
「残りの袋は?」
「自分が持つから大丈夫だ」
少尉はそう言うが、3袋もある。マリコが一つ持てばちょうどいいだろう。
「私も持ちます!」
「このくらい大丈夫だ」
「でも!」
少尉はマリコに近づく。
「軍服や装備品は結構重い。落として怪我をしては大変だ」
「それでは、ほかの袋を持ちます」
少尉はふっと笑うと、マリコの肩に手を置き、腰を屈めて目線を合わせた。
「あなたに、逞しいところを見せたい、という男心をわかってもらえないだろうか?」
「え、えっと…」
マリコは口ごもる。
「荷物は自分に持たせて欲しい」
「………ずるいです」
「ん?」
「そんな風に言われたら、私、何も言えません」
「もちろん。それが狙いだ」
「少尉!」
マリコはからかわれたと思い、唇を尖らせる。
「何も言えないなら」
土門少尉はマリコの頬に手を添え、上を向かせる。
「黙って」
強制的にマリコを黙らせた。その唇を奪って。
「マリコさんの家へ戻ったら、“こういうこと”はご法度だから、今は許してほしい」
少尉はもう一度マリコに口づけた。
「……………」
やっぱりそうよね…、とマリコは少しだけ落胆している自分に気づいて赤面した。
「マリコさん?顔が赤い。どこか具合でも?」
「え?え?い、いいえ。だ、大丈夫ですっ!」
吃りまくりのマリコ。
『私ったら何てはしたない想像をしてしまったのかしら。』
マリコは、ぐんぐん赤みを増す頬を隠すために両手をあてる。
そんなマリコの様子を見て、土門少尉は楽しそうに笑っている。まるでマリコの心の内を知っているかのように。
「さあ、マリコさんの家に戻ろう」
「はい」
戸締まりを確認すると、二人は荷物を手に少尉の家をあとにした。