京都浴衣振興会協賛花火大会の怪



射的にヨーヨー釣り、たこ焼きにりんご飴にイカ焼き。
お腹も思い出も十分楽しんだ二人は、マリコの家のソファに落ち着いた。

「土門さん、食べすぎよ」

「懐かしくてなあ、つい」

「今夜はビールなしよ」

「はい」と差し出されたのは同じ麦でも泡立ちのない麦茶。

「祭りの日ぐらい羽目を外したっていいだろう?」

いじけて不満を口にしてみるが、マリコは素知らぬ顔だ。

「ちえっ」と毒づきながらも、土門はまるで夫婦のようなこんなやり取りが嫌いではない。


「なぁ。実はずっと気になっていることがあるんだ」

「なに?」

「なんで蒲原と涌田が俺たちに似た二人を目撃したんだろうな?」

「一緒にいたからじゃない………あっ!」

「な?やっぱりそういうことだよな?」

「そうだったのね、あの二人」

もしかして、ヤブヘビとはこういうことか。
まさか逆に自分たちへブーメランが戻ってこようとは、蒲原も亜美も予想外だろう。

「まあ、若い奴らのことはいいさ」

土門は急にソファから立ち上がると、ギシッとスプリングを軋ませて、マリコにのしかかる。

「どもん、さん?」

「目撃情報は誤解だとわかったし、祭りも楽しかったな」

「また来年も行きたいわ」

上目遣いに強請られて、土門は「もちろん」と答えた。

「そろそろ大人は、さっきの続きの時間といこうじゃないか?」

「シャワーは?」

土門は首を振る。

「お前の浴衣姿をもっと見ていたい…」



*****



シュルリ…。
聞こえるのは衣擦れの音。
綺麗に結われていた帯も、今はソファから床へと流れているだけ。
緩められた浴衣は、まるで花弁が開くように着崩され、乱されていく。

視線がとらえるのは、隠されていた肌。
土門の手がそっと衿元を広げれば、白磁のようなうなじと、まろやかな双肩が現れた。

惹きつけられるように土門はその肩口に顔を埋め、唇を這わせていく。
味わうのは愛しい女のすべて。
陰影の美しい鎖骨のくぼみを過ぎると、ひっそりと息づく膨らみに己のモノだと赤い所有印を刻んだ。

「ふっ、ぁ…」

そして、“薫”の言の葉。

「綺麗だ」

何度も熱く、甘く囁かれて。
マリコの身体は浴衣に描かれた金魚のように朱色に染まり匂いたつ。

マリコは感じていた。
お互いの鼓動。そして熱。
触れられている箇所が、重なり合う中が、蕩けて混ざり合う。
五感の全てで一つになる心地よさ。

「んっ、ぁん………」

「榊…」

今宵、マリコは土門という水の中を泳ぐようにその身を揺らし続けるのだった。



fin.


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