星の閨



マリコを腕に抱き、とろとろと微睡んでいた土門は、聞こえてきたため息に目を開けた。

「どうした?」

「…止まないわねぇ」

「雨か?」

「ん……」

今日は七夕なのだが、梅雨前線の影響で朝から切れ間なく雨が降り続いているのだ。

「一年に一度しか会えないのに、これじゃあ無理ね」

また、ため息。

「織姫と彦星のことがそんなに気になるのか?」

土門はマリコの髪を漉きながら、憂いを帯びた瞳を覗き込んだ。

「え?うん…願い事がね」

「願い事?」

「この前、府警のエントランスに笹が飾ってあったでしょう?それに短冊を書いたのよ」

「ほう?なんて書いたんだ?」

ちらっ、とマリコは土門を見上げる。

「…………………………好きな人とずっと一緒にいられますように」

思わず土門が「ぷっ」と吹き出すと、マリコはむくれる。

仕事モードの時はテキパキ、バリバリといった雰囲気のマリコだが、プライベートはふんわり天然で幼子のような一面もある。
それは付き合うようになって、土門が見つけた新しいマリコだ。
土門はそんなマリコをけっこう気に入っている。
自分しか知らない、自分にしか見せない、そこに得も言われぬ愛おしさを感じるのだ。

「今もずっと一緒にいるだろう?」

機嫌を直して欲しくて、土門はマリコの頬をくすぐる。
ところが「そんなことでは誤魔化されない」と、マリコはふいっと顔をそらした。

「今だけ、じゃないの」

「ん?」

「ずっと。願い事は、ずっと一緒にいられますように、なの」

駄々を捏ねる大きな女の子。

土門は腕を解くと起き上がり、ベッドを降りた。
そしてサイドテーブルの引き出しを開けると、何かを取り出し、ふいにマリコを呼んだ。

「榊!」

「え!?」

虹のような放物線を描いてマリコの手に落ちてきた流れ星は、銀色。

「やるよ」

「これ…いいの?」

「失くすなよ?」

「ん」

「これで短冊の願い事は叶いそうか?」

「わからないわ。だってこの先、何十年もの検証が必要だから」

「気の遠くなるような話だな」

「そうね。でも付き合ってくれるんでしょ?」

「仰せのままに」

そういうと、土門は再びマリコに重なる。
どんなに寝乱れても、固く握り合ったままの手のひら。
その中には、小さな鍵が大切に隠されていた。



fin.


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