ミッションインポッシブル
一方、別室では土門とマリコが取り残されていた。
本当は早月がマリコの着替えを手伝うはずだったのだが、教務課から至急の呼び出しが入り、飛び出していってしまったのだ。
その状況のまま、すでに30分が経過していた。
「土門さん、先に着替えて戻っていて。仕事があるでしょう?」
「お前はどうするんだ?」
「先生が戻って来るまで待ってるわ」
「お前だって鑑定が残ってるんじゃないのか?」
「ええ。でも仕方ないわ」
「……………よし。俺が手伝ってやる」
「え!?いいわよ」
「見ないようにすればいいだろ?」
「だ、大丈夫。それなら自分で着替えるから」
「自分でできるなら、どうして先生を待つ必要がある?本当はできないから、頼んだんだろう?」
「うっ……」
土門が近づくと、マリコは後ずさる。
「藤倉部長とはあんなにくっついていたのに、俺が近づくと逃げるのか?」
「それとこれとは…」
「いいから、こっちに来い!」
土門はマリコの腕をひっぱると、ドレス姿の体を抱きしめる。
「このファスナーを下ろせばいいのか?」
うなじに触れ、慎重にファスナーを引っ張っていく。
肩甲骨を過ぎ、腰のラインまで下しきると、土門はスルッとノースリーブの上を脱がせた。
恥ずかしくて、マリコは土門にしがみついた。離れれば胸元が見えてしまう。
土門はそれをいいことに、さらにスカート部分も床に落とした。脱いだドレスは生地のポリュームで小山のように盛り上がる。
マリコは不自由な体勢のまま、生地を踏まないように中から出るのに四苦八苦している。
見かねた土門がマリコを抱き上げた。
「ど、土門さん!」
ひょいとドレスの山から引き抜かれたマリコは純白の下着にガーターベルト、そしてタイツだけの姿で横抱きにされてしまった。
土門の目はマリコを通り越し、病室のベッドに注がれた。幸いここは個室だ。部屋には鍵がついている。
土門はマリコを抱いたまま、扉に鍵をかけた。
施錠の音に、マリコはピクリと反応すると、土門の首元に顔を隠した。
土門はマリコをベットに下ろすと、その上から覆いかぶさる。
「初夜って、こんな感じか?」
「知らないわ」
「お前は経験があるだろう?」
「本当に知らないわ。だって拓也はお式の当日、酔っ払って寝ちゃったもの」
「ぶっ!そりゃ、災難だったな」
マリコは頬を膨らませる。
「なによ!土門さんだって経験あるじゃない」
「さてな。もう昔過ぎて忘れた」
「あ、ずるい!」
土門の記憶は本当に曖昧だった。でも今このときほど鼓動が激しくはなかっただろうと思う。
土門はマリコを引っ張り起こした。
「お互い記憶がないなら、新しく作らないか?俺とお前で」
初夜の記憶を作る…二人で。
それって。
「もしかしてプロポーズ?」
「もしかしなくても、そのつもりだ」
「本当に?これもお芝居だなんて言われたら、私…」
「ばか。正真正銘のプロポーズだ。今度は俺のためだけにドレスを着てくれ、榊…いや、マリコ」
マリコは土門に飛びついた。
「おっと!」
土門はしっかりとその体を抱きとめる。
「返事は?」
「もちろん、OKよ!」
どちらからともなく二人は顔を近づけ、唇を重ねた。
マリコは嬉しくて、何度も土門にキスをせがむ。
しかし、土門は…。
嬉しい反面、この魅惑的すぎる状況に鋼の精神で立ち向かわねばならぬ苦行に、頭と下半身を悩ませるのだった。