ミッションインポッシブル
「甚一、テーブルに置いてある荷物は全部かばんにしまうんだよ。それからゴミ箱の中身も収集ボックスへ捨てて。それから…」
「順番にやるから、ちょ、ちょっと待ってくれ」
病室ではトキヱからの司令に、藤倉が右往左往していた。
「まったく。昔から不器用なくせに、何してるんだろうね、この子は」
「………すまん」
ふぅ、とトキヱは肩をすぼめる。
「あんたはいくつになっても、どれだけ成長しても、私には子供のままだよ。だから心配もする。でも、信頼もしてるさ。腐っても京都府警の刑事部長だ。だから変なことに気を回さないで、世の中の人のために存分に働きな。いつかきっと、そんなあんたのことを支えてくれる人と出会えるさ。なんたって、あんたはあたしの自慢の息子だからね!」
「おふくろ……」
その先は無言のまま、二人は黙々と帰り支度を進めた。
たった数日の入院だったが、荷物はそれなりの量になった。
「ありがとう。あとは大丈夫だから、仕事に戻りな」
「よいしょ」と大ぶりなカバンを肩にかけ、紙袋を手にしようとした母親から、藤倉は荷物を奪った。
「大した力もないくせに、無理するな。途中で転んで、また入院なんてことになったら目も当てられん」
「…………………」
「何だよ?」
じっと自分を見てくる母親に、藤倉は居心地が悪くなる。
「いいや。……悪いね」
「気にするな」
「……………………………………………ありがとう、甚一」
答えはなく、藤倉は荷物を手に病室を出る。トキヱは息子の後を追った。
ずっと昔は自分の肩より下に頭があったのに、いつの頃からか、もう見上げるほどになって久しい。
頼もしく成長した息子への嬉しさと、老いていく自分への侘しさを抱え、トキヱは帰路につく。
帰りの列車の中で、二人がけの座席に一人で腰掛け窓に目を向ければ、過ぎていく景色はまるで走馬灯のようだった。