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ここは、婦女子賑わう三○デーパートメントストア。
カラフルな和装洋装に混じり、背の高い軍服の背中はひどく目立つ。

「いらっしゃいませ。何かお探しでしょうか?」

女性店員が恐る恐る声をかける。

「傘を…探しているのだが」
「左様でございますか。男性用の雨傘でしたら、あちらにご用意しております」

先立ち、案内しようとする店員を男は止めた。

「いや。女ものでよいのだ」
「はあ…」


そんなやりとりがあったのは今月初旬。
今日はもう、水無月も十日と一日を過ぎている。
雑節のひとつ「入梅」にあたる今日は、例年なら曇天模様に小雨といった天候だろうが、今年に限ってはまるで夏模様だ。

青空に雲はなく、眩しい日差しが降り注ぐ。
道を行き交う人々は日陰を探して歩いていた。

「少尉!こんにちは。今日は暑いですね!」

そういって土門少尉の前に現れたマリコは、檸檬色のワンピースをまとっていた。

「ああ。まだ入梅だというのに、夏のようだ」
「本当に。すごい日差しですね」

マリコは額に手を当て、眩しさに目を細める。

「これを使うといい」

土門少尉が手渡したのは、日傘。

「少尉?」
「今日はマリコさんの誕生日だろう?」
「え?あの、あの…」
「さあ、開いてごらん」

マリコは言われた通りに傘を広げた。
青空の下、それはまるで白い雲のようだった。

土門少尉が選んだのは真っ白な日傘。
しかし生地には同色の糸で手の混んだ刺繍が施され、柄の途中には臙脂の房が結ばれている。
シンプルだが、洒落たデザインの日傘だった。

「涼しいです。とっても」
「そうか。役に立ってよかった」
「ありがとうございます。私の誕生日…覚えていてくれたんですね」

嬉しそうなマリコに対し、土門少尉はやや苦い顔だ。

「マリコさん、少し傘を傾けてくれないか?」
「はい。このくらいで…………………………!!!」
「あなたの誕生日を覚えていないと思われるのは心外だ。何よりも大切な日なのだから。わかったかな?」
「……………はい」
「ここで待っているから、紅を直してくるといい」

恥ずかしそうにマリコがこの場を離れると、土門少尉は自分の唇を指で拭った。

親指をほのかに染める朱色。
それは照れたマリコの頬の色によく似ていた。
いつまでも生娘のように初心な恋人が、土門少尉は愛おしくてたまらない。
大切にしたいと思いつつ…。
場所もわきまえず、手が伸びてしまう己の自制心の無さには呆れるしかない。

「だが、可愛いものは仕方ない」

しれっと呟くと、視界の先からその可愛い人は自分に向って走ってくる。
跳ねるワンピースの裾に目を奪われ、はにかむ笑顔に鼓動が速まる。

今宵も手離せそうにないと、土門少尉はため息をついた。


(こっそり)
管「送信ありがとうございました!(≧∇≦)管理人の頑張る源です。ぜひまたお越しください(^^)」


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