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「お疲れさん。乾杯!」

今日は仕事納め。
科捜研では、日野所長の掛け声で納会が始まった。
そこに土門、蒲原、そして早月も同席していた。
刑事たちは正月も交代で勤務があるが、それでも一旦は区切りとして、共にコップを傾ける。
ただし残念ながら、中身はジュースだ。

「今年も色んな事件があったねぇ」

所長はしみじみジュースを飲み干す。

「香道“宝居流”の誘拐事件や、植物の悲鳴を鑑定する、なんてこともしたよねぇ」
「僕は篠宮刑事と追ったフードイベントの事件が思い出深いですね」

君嶋は口の悪い女刑事のことを思い返す。
その隣で宇佐見も今年の事件を反芻してみた。

「防災アドバイザーまもるんの事件のときは、マリコさんが山肌を落ちたって聞いて、皆で心配しましたよね。大した怪我でなくて本当によかったです」
「今年もマリコくんの無茶は健在だったわけか。来年は勘弁してほしいね」

皆も一応に苦笑するしかない。
亜美は、少し離れたところで土門と話しているマリコに声をかけた。

「そういえば、マリコさんはどの事件が…」
「涌田!」

亜美を遮ったのは土門だ。
「蒲原と飲み物の追加、買いに行ってきてくれ」
「あ、はい」
「行こう、涌田さん」

蒲原と亜美は連れ立って出ていく。

「さすが、土門さん」

背後から早月がこっそり土門に話しかけた。

「マリコさんにとって、今年は辛い事件があったものね。思い出させたくなかったんでしょ?」
「何の事です?」
「惚けても、この場にいる皆にはバレバレよ。知らぬはマリコさんばかり、ね」

早月は鮮やかにウィンクを決める。
しかし土門は眉間に皺を刻んだだけだ。

「マリコさんのことだから、もう前を向いていると思うけど、そうすぐに傷口は塞がらないでしょう」

それはマリコを慕う、若き科捜研の女の事件だ。身近で尊い命が失われていく辛さは、土門も身を持って知っている。

「マリコさんのこと、よろしくね」

ポンポンと気安く肩を叩かれて、益々土門は皺を深くした。


宴もお開きになると、それぞれ帰り支度を済ませた者から「よいお年を!」と口にしながら去っていく。
最後まで残ったのはマリコと土門だ。

「まだ帰らないのか?」
「部屋のゴミをまとめたら帰るわ」

大掃除で出たゴミをマリコは大袋に詰めて、袋の口を閉じる。
「よしっ。あとはこれを持って帰らなくちゃ」
「持って帰るのか?」
「だって、ゴミの回収はもう年明けって言われたのよ。刑事課も同じはずよ」
「知らなかったな」
「総務の人がまとめてくれてるんじゃない」
「そうかもな。なあ」
「なに?」
「俺の家の近所は、明日までゴミの回収があるぞ」
「もしかして、持って帰ってくれるの?」

マリコの瞳がキラキラ光る。

「いいぞ。ただし、お前も一緒にな」

マリコは目を丸くする。

「年明け2日まで俺は休みだ。1年の苦労はゴミと一緒に捨てて、その後は二人でゆっくり疲れを癒さないか?」
「美味しいものでも食べながら?」
「ああ、そうだな。温泉もつけるか?」
「いいの?」
「この時期だからな。高級宿しか空いてなかったら、ワリカンだぞ?」

マリコは土門の腕に飛びついた。

こうして土門は右手にゴミを、左腕にマリコを携えて“お持ち帰り”したのだった。

初日の出が昇るころ。
二人はまだ、幸せな夢の中。



(こっそり)
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