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今年は日本列島が数十年に一度という記録的な寒波に襲われ、昨夜から京都の街中でもかなりの降雪があった。
朝外へ出て、マリコは積雪の厚みに驚いた。転ばないように、慎重に足を進める。新雪の領域に入ると、歩くたびにサクサクと音が鳴った。
軽やかでリズミカルなその音が気に入り、マリコは楽しげに歩みを続ける。

サク、サク、サク。
サク、サク、…ザク、サク……ザク。

途中、不協和音のような足音が混じるが、マリコは気づかないようだ。

サク、サク、サ……

「えっ!?」

下を見ずに踏み出した先は凍っていた。

「きゃあ!」

つるりと踵は宙を蹴り、あわや尻餅か…というすんでのところでマリコは救出された。

「雪の日に下を見ないで歩くやつがいるか」
「土門さん?」

目を丸くして、マリコは自分を抱える土門を見た。

「その様子じゃ、ずっと俺が後ろにいたことも気づいてないだろう」
「そうなの?声をかけてくれればいいのに…」

まさか楽しげに歩くマリコの後ろ姿が微笑ましくて見ていたかったから…とは口が裂けても言えない。

「お前が転ぶかもしれないと思って警戒していたんだ。おかげで転ばずにすんだだろう」
「うん…」
「なんだ?」
「転ばずにはすんだけど…今のタイミングで足を捻ってしまったみたい」

マリコは足を引きずって土門から離れる。

「痛むのか?」
「うん。たぶん捻挫ね。あとで風丘先生に診てもらうわ」
「そうしろ。さてと、それじゃぁ…」

土門はマリコの前にしゃがむと、「ほら」と声をかける。

「なに?」
「なにって、そのままだと歩けないだろ。背中に乗れ」
「い、いいわよ。ゆっくり歩けば大丈夫だから」
「そんなことして、悪化したらどうするんだ?京都府警まではまだ大分あるぞ」
「で、でも…重いし」
「お前は軽いほうだ」
「それに…土門さん、恥ずかしいでしょう?」
「まったく!」
「そ、そう?」

力強く頷いた土門は、「これで断る理由はないだろう?」と眉を上げる。
そして、自分が巻いていたマフラーをマリコの頭にふわりとかけた。

「それで顔を隠せば恥ずかしくないだろ。さっさとしろ。遅刻しちまう」

観念したマリコは、土門の背中に乗った。
マリコをおんぶしたまま、土門はずんずん歩いていく。

「寒くないか?」

背中越しに聞こえる声は、心なしかいつもより柔らかい。

「ええ。温かいわ」
「そうか」

マリコはピタリと土門の背中に頬を寄せた。
大きな背中は安心感があって、マリコは幼い日の父の背中を思い出した。

「…おい」
「なに?」
「言っておくが、俺は榊監察官じゃないぞ」
「すごい!よく私の考えてることがわかったわね」

意識不明のお姫様抱っこならいざしらず、今日のおんぶまで父親と一緒にされてはかなわない。

「ふんっ!」

不機嫌になってしまった背中にマリコはそっと囁いた。

「だけど私、父さんより土門さんの背中の方が好きよ。このままずっと乗っていたいくらい」
「…………」

聞こえなかったのか、土門は何も答えず歩き続けている。
けれど、マリコは気づいているだろうか?
少しだけ土門の歩く速度が落ちたことに。

銀世界に二人きりの時間が、少しだけ伸びたことに。



(こっそり)
管「送信ありがとうございました!(≧∇≦)管理人の頑張る源です。ぜひまたお越しください(^^)」


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