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「…………?」

土門は腕の中でもぞもぞと動く気配に夢うつつで気がついた。

マリコは慎重に体を動かすと、土門にぴたりと寄り添い、まるですがりつくようにぎゅっと彼のシャツを掴む。
そしてカタカタと肩を震わせながら、ふたたび眠りに落ちるのだ。

1週間近く、毎晩のようにこの行為は繰り返されている。
それとなくマリコにたずねても、本人は気づいていないらしく「土門さん、寝ぼけていたんじゃない?」と一笑された。
けれどやはり心配で、ここ数日はどんなに遅くなっても土門はマリコの家に帰るようにしていた。

「……………?」

再び土門は目を開けた。
今夜はいつもと様子が違う。
マリコの体の震えが止まらないのだ。

土門はため息を吐いた。
その振動が伝わったのだろう。
マリコはギクリと体をすくませた。

「そんなに俺は頼りにならないか?何があった?俺に言えないようなことか?」

マリコは隠れるように、土門の胸に頬を埋める。
その心臓の鼓動は乱れてはいない。
これまでもトクン、トクンと聞こえるたびに、マリコを癒やし、励ましてくれた。

「榊?」
「見たのよ」
「見た?何を?」
「……………腕時計」

その瞬間、土門はすべてを悟った。
迂闊だった。
マリコに気づかれる前に、早々に始末するべきだった。
彼女の脳裏には木場のことも蘇ったに違いない。

「それで、心配になったのか?」
「当たり前でしょう!」

ついにマリコは顔を上げた。
もう泣きそうに瞳は揺れている。

「だったらお前が俺を守ってくれ」
「え?」
「俺の隣で、俺だけを見て、そして笑ってくれ。それが俺に力を与えてくれる」
「それだけ?」
「おかしいか?でもそれほどに、お前の存在が今の俺にとってはすべてなんだ。止まった時計よりも、動いている俺の時間を、鼓動を信じてくれ」

静かな声とは裏腹な強い視線に射抜かれて、マリコは囚われの身となった。
否とはいえない。
マリコを絡め取る見えない鎖は真綿のように優しくて、砂糖菓子のように甘い。
そこに幾重にも織り込まれた愛の言葉は、マリコの心をも縛り付けた。

「土門さん、ずっと側にいて。ずっと側にいさせて」

ようやくほころんだマリコのかんばせ

「ばか。当たり前だ」

ゆっくりと閉じていく二人の瞳は、きっとまた明日を映すことだろう。



(こっそり)
管「送信ありがとうございました!(≧∇≦)管理人の頑張る源です。ぜひまたお越しください(^^)」


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