道知辺



春遠し。
それでもいずこからか、芳しく華やかな香りが風に乗って土門の鼻先を通り過ぎた。

「ん?もう梅の季節か…」

まだまだ寒さ厳しき折ではあるが、季節は確実に春へと向かっている。
歩いていた土門の足が止まったのは、藤倉の部屋の前だった。ノックをすれば、「入れ」と返事が聞こえた。

「失礼します」

扉を開け、土門は室内に踏み入る。

その瞬間、科学者と刑事の運命の歯車が、カラリと回り始めた。


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