『密着!どもマリ番外編』(年末ver.)
「ん?そのベッドの足の辺り、輪ジミがあるな。なんだ?」
「そうなの。でもシミの成分がわからなくて攻めあぐねていたの。血液ならセスキ炭酸ソーダが有効だし、他のシミならエタノールなんだけど、どっちかしら」
マリコは腕を組んで考え込む。
土門は嘆息し、ホームセンターの袋からスプレーを取り出した。
「とりあえず、これ、試してみろ」
床に噴射して雑巾で拭き取ると、フローリングはピカピカになった。
「すごいわ!」
土門が渡したのはマジッ○リン。
「それで大概の汚れは落ちるから、今度からまずは試してみろ」
「わかったわ。ありがとう」
「……………いや」
まるで魔法の液体を見つめるように、マリコはマジックリンに興味津々だ。
「ちなみにキッチン用、浴室用なんかもあるぞ」
「ええ!そうなの?すごいわ!!」
「…………お前らしいよ」
ははは…と、土門は肩の力が抜けた。
「日が暮れる前に窓の掃除もしちまおう」
「そうね」
「俺は外を拭くから、お前は内側を頼む」
「うん」
外側は汚れが溜まっているため、土門は洗剤を吹き付けては磨いていく。内側のマリコの方は水拭きでも十分綺麗になっていた。
ところが途中で、マリコは拭いても落ちない小さな汚れを見つけた。何度かこするが落ちきらない。
マリコは「はぁ」と息を吹きかけては雑巾を滑らす。
「うーん。あと少しね。はぁ〜」
キュッ、キュッと擦れる音は、窓の外の土門の耳にも聞こえていた。当然、ガラスがマリコの息で曇る様子も、その唇の動きもばっちり見えている。
土門はマリコの前に立つと、同じ場所に息を吹きかけた。
マリコは驚いて「は」と息を吐き出すままの形で口が固まっている。
その様子に笑いながら、土門は少し膝を折る。そして綺麗になったばかりの窓に唇を押し付けた。
部屋に戻ると、マリコに怒られた。
「せっかくピカピカになったのに」
「誰が掃除したのか、口唇紋を証拠として残しておこうと思ってな」
「あら!私だってちゃんと掃除したわよ、ほら?」
土門が窓を振り返ると、内側からもう一つ。
土門の口唇紋と重なるように、別の口唇紋が付着していた。何とも可愛らしい証拠だ。
「重複指紋ならぬ、重複口唇紋ってやつか?」
マリコはふふっと笑う。
「ちょっと違うわね。重複口唇紋ていうのはね…………」
するりと首に巻きつく腕が、土門の顔を引き寄せる。
長くなりそうな実演に、この日の大掃除はここで終了となったのだった。
fin.
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