没ちゃん話



「これ、どうしたらいいんだ…」

ブツを手に、土門は途方に暮れた。


ことの発端は30分ほど前。

この日、土門は地域課の応援で大型商業施設内を巡回していた。このところ、京都府警の管轄では万引、盗撮といった犯罪がじわりと増えつつあるのだ。これらは軽微とはいえ、いずれ重大な犯罪に繋がるきっかけにもなる。危険な芽は早いうちに摘んでおくに限る。土門たち刑事課の応援組はその強面を活かし、不良たちの溜まりやすいアミューズメント施設のフロアを見回っていた。
そんなとき、土門はゲームセンターで泣きそうな子どもを見つけた。

声をかけてみれば、UFOキャッチャーを見ているうちに家族とはぐれてしまったらしい。土門は店のフタッフに迷子放送を流してもらい、自身は子どもとともに休憩室で家族の到着を待つことにした。
始めは不安気だった子どもも、パトカーや白バイの話を聞かせてやると、目を輝かせ土門の話に夢中になった。
しばらくして家族が迎えに来たときには、すっかり土門に懐いていた。

「迎えに来てもらえてよかったな。今度ははぐれないように気をつけろよ」

「うん。おまわりさん、ありがとう。はい!」

「ん?」

「あげる。バイバイ」

UFOキャッチャーの景品らしき袋を土門に渡すと、子どもは手を振って家族と帰っていった。

土門は袋を除き込み唖然とした。

「ああ、それ。マリドールですね」

「マリドール?」

「最近人気のアニメキャラですよ。『マリ』っていう助教授が主人公で、警察と協力して事件を解決するってストーリーなんです」

一緒に迷子対応に協力してくれたスタッフが、土門の手の中の人形を見て教えてくれた。
何となく、どこかで似たような話を聞いた気もするが…そんなことより、土門はその人形の風貌に戸惑っていた。

白衣にルーペを持った、ボブカットの女性の人形。
よく見れば、いや、よく見なくても、土門の知り合いにそっくりだ。

ここで、土門が戸惑った理由は2つ。

1つは同じ人形がまだ沢山あり、多くの人間(主に男)が手にするだろうという不快感。しかし、それは土門にはどうしようもなく、目をつぶるしかない。
そしてもう1つは、この人形をどうすればいいのかという悩みだ。

誰かにあげても、どこかに飾っても、瞬く間に噂は職場に広がるだろう。
だからといって、「捨てる」という選択肢は土門にはない。

「…………本人(?)に渡すのが一番か?」



その夜。
マリコの部屋のソファで今日の出来事を話しながら、土門は問題のマリドールをマリコに渡してみた。

「な?お前に似てるだろう?」

すると、マリコは突然うつむいてしまった。

「どうした?」

「土門さん。……まさか変なところ触ったりしてないわよね?」

「おまえっ!俺にそんな趣味は…」

土門が言いかけると、マリコは真っ赤な顔で、上目遣いでこちらを見ていた。
その表情に土門は喉を鳴らした。

「変なところって、どこだ?」

土門はマリコをソファの隅に追い詰める。

「え?そ、それは…」

「例えば……こことか?」

顎の下から首筋をゆっくりなぞる。

「ちょっと!」

「それとも………?」

そのまま手が滑り降りれば、ことさらに柔らかい感触。

「やめ…………っ。ん。……… 」

と、ふいに手が離れる。

「なんてところは触ってないぞ」

中途半端に煽られて、マリコはからかう土門を睨む。

「土門さんのいじわる!マリドールとキスでもしてれば!」

マリコは土門の顔にマリドールをぶつける。

「おっと!」

すんでのところでかわした土門は、そのままマリコの腕を引いた。

「俺はこっちのほうがいい」



fin.


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