没ちゃん話
ある日、パブリックスペースのゴミ箱に不審物が捨てられていた。それは破れた白いゴム風船のようなものの破片で、一部には白濁した液体が付着している。
一体このゴミの正体は何なのか。
捨てたのは誰か…。
「あれ?」
最初にそれを発見したのは涌田亜美。
さて、どうする亜美ちゃん。
「え?え?え?これって、もしかして…。もしかしなくても“アレ”だよね?何でこんな所に捨ててあるの?え?誰が捨てたの…ていうか、誰の?」
そこで足音が聞こえ、ハッと亜美は口元を隠す。
そして何も知らないふりで、パソコンの画面に集中した。
やってきたのは君嶋直樹。
さて、君ならどうする君嶋くん。
じーっとブツを凝視する君嶋。
そして、亜美の顔を見る。
亜美は無視して黙々と作業を続ける…ふりをする。
「本体はどこなんだろう…」
恐ろしい独り言を吐くと、君嶋は鑑定室へ消えた。
次に姿を現したのは、沈着冷静な宇佐見裕也。
さて、どうする宇佐見さん。
なんと!
宇佐見は立ち止まるとこともなく、鑑定室へ向かってしまった。
「え?絶対気づいてたよね?」
亜美は宇佐見の鑑定室を見るが、何と言えばいいのかわからず、声をかけることはできなかった。
その鑑定室では。
「後でこっそり捨てておかないと。土門さんということはないでしょうから、まさか蒲原さん?若いとはいえ、神聖な職場にあんなものを捨てるなんて、困ったものだ」
気の毒な蒲原刑事。
宇佐見はため息をつきながら、不透明のゴミ袋を探した。
4人目は、我らが科捜研の女。
さて、どうするマリコさん。
「あら?何かしらこのゴミ」
マリコは鑑定用の手袋をはめると、ゴミ箱に手を突っ込んだ。
「マ、マリコさん!」
亜美は慌てるが、マリコはブツを持ち上げると、クンクンと匂いを嗅いだ。
「ラテックスかしら?」
「いや、そういうことじゃなくて!」
「亜美ちゃん、これ何だと思う?」
一人で興奮している亜美に、マリコはずいっとブツを近づける。
「ひえ〜!止めてください、マリコさん!それ…“ピーーーー”ですよ!」
「……………」
マリコは目が点だ。
「早く捨ててください!」
亜美が叫ぶと、何事かと君嶋と宇佐見も現れ、マリコの様子に固まった。
しかしマリコは首を傾げると、もう一度匂いを嗅いで一言。
「匂いが違うわよ?」
『………………(マリコさん、誰と比べているんだろう?)』
3人の脳裏に浮かぶのは一人しかいない。
そのとき、日野所長が雑巾を手に戻ってきた。
真打ち登場。
どうする所長。
「いやー、参った、参った。あれ?みんなどうしたの?」
日野はマリコの手元を見て固まる。
「マリコくん、それ…」
「ゴミ箱に捨ててあったんです」
「……………ごめん!」
日野はガバっと頭を下げた。
『ま、まさか、所長!!!!!?????』
誰もが驚きに息を飲む。
「アイスを食べようとしたら、失敗して床に落としちゃったんだ」
「え?アイス?」
「うん。あ、床は掃除したよ」
日野は雑巾を持ち上げる。
「ゴミだけ捨てたんだけど、もしかして匂う?」
「あの」
亜美が勇気を振り絞る。
「何のアイスなんですか?」
「ん?たまごアイス」
「たまごアイス?」
オウム返しの亜美に、宇佐見が「ああ」とうなずく。
「亜美ちゃん世代は知らないかもね」
亜美はすぐにスマホで検索した。
たまごアイスとは、ゴムの容器にミルクアイスが詰まったもので、端を切って吸って食べるアイスらしい。形状と色がたまごに似ていることが名前の由来のようだ。
「なんだ…アイス………」
脱力する亜美。
「何だと思ったの?」
「それが亜美ちゃんたら…」
「わあ!マリコさん!!」
亜美はマリコの前に立ち、両手を振ってその先を遮る。
「ふふふ」
マリコは亜美をからかう様に笑うと。
「最近のはもっと薄いわよ」
『!!!!!?????』
再び激震。
どうなる科捜研!
fin.
※ちなみに、“たまごアイス”は別名“おっ○いアイス”とも言うそうです( ̄ー ̄)ニヤリ