お空のすべり台
同じころ、科捜研では。
「亜美くん。この写真の場所、どこかわかりそうかい?」
亜美のPCにはソファーのようなマットの上で眠る昊の画像が映し出されていた。
マリコから転送されてきたメールを、メンバー全員で解析している最中なのだ。
「昊くん、窓のすぐ近くに寝かされているんじゃないでしょうか」
「窓?」
「はい。呂太くんに太陽光の入射角度を調べてもらったんです」
自分の名前が聞こえたからか、呂太も話に加わる。
「ボク、この写真は車の後部座席じゃないかと思うよ」
「車か!?移動しているとなると厄介だね」
「昊くん、大丈夫かな…」
呂太のつぶやきに、亜美も心配そうな表情を見せる。
昊は科捜研でも人気者だったのだ。
『あみちゃん、ロタ、しゃちょー、うさぎさん』
そう、みんなを呼んではしゃいでいた昊。
「昊くんのためにも、私たちは私たちのできることをしましょう」
宇佐見の言葉に全員が頷いた。
「そうだね。亜美くん、マリコくんにこのこと報告して!」
「はい!」
「そう。車ね…なるほど。また何か分かったら連絡してね。ありがとう」
「何かわかったのか?」
「昊くんの画像、車の後部座席じゃないか、って」
「車?」
「ええ。一応、シートから車種を調べてもらっているわ」
「犯人は車で移動し続けているということか…」
しかし、最初のメール以降、犯人からの接触はまるでない。
どういうことなのか。
そもそも要求がないことも、土門は気になっていた。
土門はじっと考え込む。
身代金が目的でないとしたら、なぜ昊を攫ったのか…。
「美咲?起きて大丈夫なの?」
マリコの声に、土門は思考を中断した。
「うん。少し眠ったらすっきりしたわ」
マリコが美咲の額に手を当てる。
「熱も下がったみたいね」
「それより犯人から連絡あった?」
「いいえ。まだよ。美咲、私の仲間が画像を解析してくれたんだけど…これ、車の後部座席じゃないかしら?」
「車?」
「そう。見覚えない?」
美咲が口を開きかけたその時、インターフォンが鳴った。
一気に緊張感が張り詰める。
「山野辺さん」
土門に促され、美咲はインターフォンの画面を覗いた。
「昊!?」
「え?待って、美咲!」
美咲はマリコの静止を振り切り、玄関へ走った。
勢いよく扉を開くと、そこには男に手を繋がれて昊が立っていた。
「そらっ!!!」
美咲は膝を折ると、昊を力いっぱい抱きしめた。
「ママ?どうしたの?」
昊は母親に抱きつきながらも、きょとんとしている。
すると部屋の奥から土門を筆頭に荒い足音がいくつも響いた。
「お前が誘拐犯か!」
複数の捜査員たちが男を羽交い締めにする。
「待って、彼は!」
美咲の声に重なり。
「パパをイジメないで!」
「「「!!!???」」」
昊の一言に全員が動きを止めた。
「美咲、どういうこと?説明してちょうだい」
最後に姿を見せたマリコは、一人冷静だった。