300番さまへ




引き出しの奥から、美貴の忘れ物だろう、パーティーグッズの余りが見つかった。
ほんの出来心から、土門はオーダーカードの白紙に、こう書き込んだ。

『今日一日、苗字を呼ぶのは禁止』

ところが土門のもくろみを余所に、紆余曲折を経て、そのカードは書き手のもとへと戻ってきた…。

「おい!」
「なに?」
「……おい」
「だから、なに?」
「………マ」
「マ?」
「……………」

「変な土門さん!名前を呼ぶのがそんなに恥ずかしいの?」
「うっ…。だったらお前は言えるのか?」
「言えるわよ……薫さん?」

くりっとした瞳で、小首を傾げるマリコ。
そんな顔で名前を呼ばれたら……いろいろとマズイ。

「ほら、土門さんも呼んでみて?」
そういって、マリコが顔を近づける。

マズイ。
このままでは………本当にマズイ。

「ねぇ、私の名前は?」

――― とりあえず…。

土門は名前を呼ぶことより、その口を塞ぐことに専念した。



fin.



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