京都浴衣振興会応援プロジェクト2022 with 京都府警
さて、府警内ではいよいよコンテストが始まろうとしていた。
勤務中ということもあり、参加者は京都浴衣振興会から派遣されたカメラマンに撮影してもらい、その画像を特設サイトで公開することになっていた。
署員は各自、休憩時間等を利用してネット投票を行い、優勝カップルが決まる仕組みだ。
「はい、次の参加者の方どうぞ!」
カメラマンが声を上げる。
「行きますよ、蒲原さん!」
亜美が腰の重い蒲原の背中を押す。
「いや、やっぱり、俺は…」
「もお!往生際が悪すぎるっ。私とカップルになるのがそんなに嫌なんですかっ!!!」
物凄い剣幕で、亜美は蒲原に詰め寄る。
しかし当の蒲原は、目の前に迫った亜美の怒った顔が、「チャーミングだなぁ…」などとややずれ気味だ。
「聞いてますか、蒲原さんっ!」
「き、聞いてるよ。嫌だなんて思うわけないさ」
「それなら行きますよ!」
「は、はい!」
半ば押し切られるようにして、亜美に手を引かれ、二人はカメラマンの前に立った。
ネット上にアップされた画像には、濃紺の絣を着たやや緊張気味の蒲原と、淡い水色に金魚が涼しげに泳ぐデザインの浴衣が可愛らしい、亜美の姿が映っていた。
「では、次の方!」
「ねえ、本当にいいの?私、京都府警の職員じゃないけど…」
「飛び入り参加もOKだそうですよ。それに、せっかくの機会ですから。ね?」
「そ、そう?」
次のカップルは宇佐見と、偶然科捜研に顔を出した早月だ。
この日早月は、法医学ゼミの生徒たちと夕方から花火大会を見に行く約束をしていた。
そのため、たまたま浴衣を着て科捜研に立ち寄ったのだ。
そこで宇佐見に声をかけられ、そのままコンテスト会場にまで連れてこられたのである。
「では、お二人で並んでください」
ファインダーをのぞき込んだカメラマンも、知らずため息をつく。
「こりゃ、大した美男美女だな」
そう評された二人の出で立ちは、男性はシンプルな灰色の浴衣。しかし腰に巻いた紺と見まごうほどの深い臙脂の帯が実に粋だ。
そして女性の浴衣は白地ベースながら全体に何本ものカラフルな細いストライプが走っている。
そこに渋柿色の帯と籠を合わせるあたり、こちらもお洒落上級者と言わざるを得ない。
カメラマンは残り数組の写真を取り終えると、機材を片付け、責任者へ挨拶に向かった。
そこで思わず一枚シャッターを切ると、京都府警をあとにした。
結局、土門とマリコは『浴衣の日』をそれぞれに忙しく終えた。
マリコに至っては、コンテストの終了を聞くやいなや、さっさと白衣に着替え、テキパキと深夜まで鑑定を続けたのだった。
fin.…とする訳にはいかないので、ここからは後日談をお届けしたいと思います。