糸し糸しと言う心
二人が府警についたときには、辺りはすっかり暗くなっていた。
「榊、今夜時間あるか?」
「microscopeへ行くのね?」
「ああ」
察しの早い相棒に、土門はふっと笑顔を見せた。
二人が鷺沼家を出たとき、すでにオパールの姿は消えていた。
「オパールに色々聞いてみなくちゃね」
「おいおい、相手は猫だぞ」
「オパールなら絶対何かを教えてくれるはずだわ」
猫相手に、その自信は一体どこから来るのか…。
土門は少々呆れた。
「言っておくが…」
土門はひとつ、咳払いを挟む。
「オパールに会うことだけが目的じゃない」
「え?マスターも何か関係しているの?」
“くっ”と笑うと、土門はマリコの顎に手をかけた。
「ハズレだ。俺はただ、お前と二人の時間が欲しいんだ」
そういうと、小さな声が聞こえるように、土門はマリコに顔を近づけた。
「オリジナルカクテルの『マリコ』を飲んだお前は、頬も、唇もキレイなピンク色に染まって。いつにも増して……」
すっ、と無骨な親指が下唇を撫でる。
「美味そうだからな」
「そ、そんなことないわよ!」
マリコはピンクを通り越して、熟れたリンゴの顔色で慌てる。
「そうか?」
土門はうっすらマリコのルージュのついた指の腹をペロリと舐める。
「今だって上手いぞ?」
恥ずかしすぎるマリコは居ても立っても居られず、「知らない!」と捨て台詞を吐くと先に歩いて行ってしまう。
一人残された土門は後を追いながら、今宵のマリコの調理方法について…しばし思いを巡らせるのだった。