ウェディング・エチュード
そこからは毎日、科捜研メンバー総出でホテル内及び周辺の防犯カメラの監視と解析を行った。
さらにはホテルの従業員、利用客、搬入業者に至るまで、顔と歩き方、可能ならば指紋の採取と整理に時間を費やした。
そしてタレコミによる爆破予告の前日。
早月が陣中見舞いにやってきた。
「まいど〜」
「あー、お菓子………」
連日の疲労がピークに達しつつあるのか、さすがの呂太もそれだけ言うと机につっぷした。
「あらら…。皆、お疲れさま」
「先生!いらっしゃい」
「あ、マリコさん!いよいよ明日ね」
不謹慎だが、早月は顔のニヤケが止まらない。
「ちゃんとスキンケアしてる?ブライダルエステは?」
「そんな時間ありませんよ。それにこれは…」
「あー、わかってる。わかってます。でもね、これだけはマリコさんに渡そうと思って持ってきたの」
早月は紙袋をマリコに渡した。
「何ですか?」
「説明するから、ちょっとマリコさんの部屋へ行こう」
早月に背中を押される形で二人はマリコのラボへ向った。
「マリコさん、開けてみて」
ガサゴソと袋を開け、中身を取り出したマリコは目を丸くした。
「これ、下着ですか?」
「そうよ。ブライダルインナー」
「ブライダルインナー?」
早月が持ってきたのは、ブラジャーとウエストニッパーが一体となったビスチェだ。
純白な生地が目に眩しい。
「マリコさん、これ持ってる?」
「いえ」
「だよねー。でもせっかくウェディングドレスを着るならさ、やっぱりこれを着用した方が断然ラインがきれいよ」
「でも捜査のためのお芝居だし」
「だけど、相手は土門さんなんでしょ?綺麗だと思われたくないの?」
「それは!」
「そうですけど…」という続きは、何とか早月の耳に届いた。
「仕事柄、大体の人の体格は見ればわかるからね。マリコさんのサイズもこれで大丈夫だと思うわよ」
それはそれで、何となく気恥ずかしいマリコだったが、ビスチェは早月の好意に甘えることにした。
「先生、ありがとうございます。使わせてもらいます」
「うん。あとで二人の写真送ってね」
「絶対だからね!」と早月は科捜研を立ち去るまでに、4回はマリコへ念を押した。