ウェディング・エチュード
途中、スーパーで惣菜を買い込むと、二人はマリコのマンションのリビングに腰を落ち着けた。
テーブルには買ってきたまま、プラスチックケースの蓋を開けただけのサラダや肉料理が並ぶ。
気ままに箸を動かしながら、二人が交わす会話といえば、今日の出来事。
しかし、ドレスでもタキシードでもなく、話題の中心は防犯カメラの死角だった。
……色気のないこと、この上ない。
「支配人に話をして、せめて爆破予告当日だけでもカメラを設置できるように頼んでみよう」
「ええ。お願い」
「あと明日、花屋でブーケの打ち合わせをすれば、ひと段落か?」
「そうね。どんな花のブーケがいいかしら……」
おや?と土門はマリコに視線を移す。
すると頬杖を付き、マリコは遠くを見つめていた。
マリコもやはり女性だ。
ブーケを選ぶのが楽しみなのだろう。
「ピンク色の花がいいんじゃないか?」
「ピンク?可愛いと思うけど。何か理由があるの?」
「んー?お前に似合う色だからだ」
土門はそう言うと、つんとマリコの胸元をつついた。
途端に、マリコは“かあ…”と赤くなる。
「どうして知ってるの!?」
「さっきからチラチラ見えてる」
「見ないでよ!エッチ!」
「お前こそ。シャツのボタンを開けすぎだ。てっきり俺を誘っているのかと思ったぞ?」
「そんなわけないでしょ!」という返事を予想していた土門だったが、相手は斜め上をいくマリコだ。
「誘ってたらどうするつもり?」
土門は目を丸くした。
「そうきたか…。相変わらず読めん女だ」
そこがいい…とは言わず、土門はマリコの胸元に顔を埋めた。
すん、と匂いを嗅ぐと、鼻孔がマリコの香りで満たされる。
「こっちのピンクの花も、いい香りだな」
「ばか……」
土門はマリコをその場に押し倒した。
マリコはぎゅっと土門の頭を抱きしめる。
二人の時計は、ようやく恋人の時間を刻み始めた。
翌日、二人はブーケの注文のため、フローリストをたずねた。
ブーケ専門の店員が、サンプル写真集を見せながら、大きさや形などを説明してくれる。
マリコはその写真の中から、一つを選んだ。
「こちらですね。榊さま、ドレスはどんなタイプですか?」
「えっと。確か、マーメイドラインとかいう…」
「わかりました。そうしましたら、おリボンは少し長めに垂らす感じにしましょう」
「はい、お願いします」
「きっとお似合いになると思いますよ。…ピンクのブーケ」
店員の言葉に、何故かマリコは、頬までピンクに染めていた。