ウェディング・エチュード
「今度は土門さんの番ね」
「ん?俺は白のタキシードで構わない」
「サイズもございますので、一度はご試着をお願いします」
「だそうよ」
マリコはタキシードのコーナーに土門を引っ張っていく。
ドレス程ではないが、タキシードコーナーにもそれなりの数が並んでいた。
真っ白なもの、同じ白でもストライプの地模様の入ったもの、部分的にシルバーラインが入ったものなどがあった。
「どちらかがいいんじゃない?」
マリコは真っ白なタキシードと地模様入りのものを選んだ。
「土門さん、着てみて」
「…おう」
何となく気は進まないが、サイズ云々と言われてしまえば着ないわけにいかない。
土門は真っ白な方を手に取ると、渋々着替えた。
「サイズはこれでよさそうだ」
肩や腕の具合を確かめながら、鏡の前に立つ土門。
普段のスーツとはまったく違う立ち姿に、マリコは不覚にも赤面した。
「どうした?」
「土門さん……格好いい」
「バ、バカ!何いってんだよ」
「だって………」
お互いに赤面しあう男女。
自分たちの世界にいる二人は、この場に他人がいることを分かっているのだろうか?
その後も、挙式の流れや招待客の準備など、数々の確認事項を終えると、二人は疲労困憊だった。
しかし本来の目的はこれからだ。
土門が支配人と面会している間に、マリコはホテル内の監視カメラの位置を自分の目で確認して回った。
一足先にロビーで待っていると、間もなく土門が戻ってきた。
「お疲れさん。今日は引き上げるか?」
「そうね。ドレスの試着をしたら、何だか肩が凝っちゃったわ」
「おいおい、そんなんで当日は大丈夫か?」
「大丈夫でしょ。新郎がいるんだし、ね?」
「調子のいいやつだ」
呆れた口ぶりながら、土門は「飯、寄っていくか」と続けた。
「そうしたいけど……」
マリコは本当に疲れているようだった。
「だったら、出来合いを買って、お前の家で軽く…どうだ?」
「それ、いいわね」
「よし。決まりだな」