ウェディング・エチュード
そして夕刻。
鑑定に集中するマリコを、土門が迎えにやってきた。
「榊、行くぞ」
「行く……ってどこに?」
「京都インペリアルホテルに決まってるだろう」
マリコはきょとんと固まる。
「式場の確認や、衣装決め、やることは山積みだ。もう式の日まであまり時間がないんだ。さっさと支度しろ」
「で、でも、鑑定が……」
「それはみんなに頼め。藤倉部長と日野所長にも了承済みだ」
そういう土門に急かされ、あっという間にマリコは連れ去られる。
白衣を掛けたハンガーだけが、カランと音を立てて揺れていた。
台風の目が去った科捜研では、しかし尚も強風は止むことなく吹き荒れていた。
「ホテル?ホテルって、なに?なにー!?」
「式場に衣装って、まさか…マリコさんと土門さんはついに!?」
「所長、何かご存知なんですか?」
呂太、亜美、宇佐見の順に詰め寄られ、日野のメガネがズルリと下がる。
「う…ん。実は事件絡みでね……………」
「なるほど、そういうことでしたか」
「みんな、まだ内緒にしておいてよ」
ラジャーと亜美に合わせて、呂太も敬礼してみせた。
問題のホテルに到着すると、土門はまずフロントに向かった。
「いらっしゃいませ。ご宿泊でしょうか?」
「いえ。土門と申します。支配人に後ほど面会をお願いします」
「…かしこまりました。お伝えしておきます」
「どういうこと?」
土門の隣で黙って会話を聞いていたマリコは、小声で質問した。
「場所を移そう」
二人はフロントを離れ、壁際に移動した。
「支配人はこの計画を承知している。ここに来るたびに情報の共有を行う約束だ。俺たちも準備の合間を塗って色々とすることがあるぞ」
「そういうことだったのね!」
マリコはうなずくと、「それで何をするの?」と不謹慎だが目を輝かせる。
「まずは、お前のドレス選びだ」
拍子抜けしたようなマリコに、土門は笑うと。
「それも立派な仕事だぞ」
ポン、とマリコの肩を叩いた。