ウェディング・エチュード



その日、土門とマリコは秘密裏に本部長室に呼び出された。
ノックに続けて部屋へ入ってみれば、すでに藤倉も同席していた。

「匿名で爆弾事件のタレコミがあった」

その一言で、二人の雰囲気がピリリと締まる。

「『京都インペリアルホテルに、4日後、爆弾が仕掛られる』というものだ。内密に捜索させてみたが、今のところは異常ない。しかし犯人はいつ、どこで監視しているかわからないし、迂闊に刺激して予定外の日に爆発事件が起きては元も子もない。そこで、やむなく当日に、ひと芝居打つことにした」

「芝居、ですか?」

「そうだ。幸い、このホテルにはチャペルが併設されていてな。結婚式場を兼ねている。そこで偽の結婚式を開き、出席者として捜査員と爆弾処理班員を送り込む」

藤倉はマリコを見る。

「榊、お前には花嫁になってもらう」

「待ってください!なぜ榊なんです?自分は女性捜査員が適任かと思います」

言われたマリコより早く、土門が訴える。

「だって、榊くんなら爆弾解除ができるじゃないの。ねえ?」

佐伯はしれっとそんなことをいう。

「はい。通常の爆弾なら解除できます」

「ほらね?」

土門は、苦虫を潰したような表情だ。

「決まりだな。榊、相手は誰がいい?それくらいお前に決める権利をやろう」

しばらく考え込んでいたマリコが選んだのは。

「……宇佐見さん、でしょうか?」

土門は目を見開く。

「宇佐見さんも私と同様、爆弾の解除が可能です」

そういう理由か、とある意味得心しつつも、やはり土門は反抗した。

「ちょっと待ってください!万一、犯人が近くにいたら、榊の身が危険です。新郎役は刑事のほうがいいのでは?」

「では、蒲原にするか」

「藤倉くん。蒲原くんと榊くんじゃ歳が離れてるよ。犯人に怪しまれるんじゃないのかね?」

「では…」

土門が一歩進み出る。

「では、私が」

それを遮ったのは、誰であろう…藤倉だった。

「え?部長が?」

「何だ、榊。俺では不満か?」

「いえ、そんなことは…。でも部長に何あれば、それこそ大変ではないですか?」

「榊くんの言う通り。藤倉くんは指示に徹しなさい」

佐伯にピシャリと言われ、藤倉は少しばかり不服そうだ。

「じゃあ、残るはやっぱり……」

マリコは意味ありげに隣を見上げる。

「俺は残り物か?」

「いいじゃない。残り物には福がある、って言うでしょ?」

マリコらしい物言いに、土門は呆れるより先に笑ってしまった。

「では、その福とやらに期待しよう」

こうして配役は無事に決まった。


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