other half
「マリコさん…」
「土門少尉、ごめんなさい!」
マリコはただただ頭を垂れる。
「マリコさん、私たちも一度家へ戻ろう」
土門少尉は周囲の視線からマリコを守るように歩き始めた。
再び家へ戻ると、まず少尉はマリコにお茶をいれてくれた。
「少し落ち着いて」
「ありがとうございます」
マリコは一口啜り、温かさにほっと息を吐いた。
「事情を聞かせてほしい」
「……………」
もう黙ってはいられない。
マリコは観念して、渋々口を開いた。
丸山との縁談話があること。
丸山は財閥の御曹司で、父親もこの結婚に乗り気なこと。
これまで何度か二人で出かけたこと。
でも決して何もなかったこと。
それらを包み隠さず、マリコは土門少尉へ語った。
「………………」
少尉は腕を組み、黙って聞いていた。
マリコの話が終わってもなお、土門少尉は無言のままだ。
マリコは、今朝までの幸せな時間が幻だったのではないかと思った。
二股をするような軽い女だと思われたかもしれない。
迷惑だと、関わりたくないと。
『私……きっと、嫌われちゃうわね』
マリコの視界はどんどん歪んでいく。
その見えにくい視界の端を何かが横切った。
ぎゅう…。
「どうしてもっと早く話してくれなかったんだ?どうして一人で抱え込んでしまうんだ?」
「え?」
今、マリコは土門少尉の腕の中にいた。
「あなたのことだ。一人で悩んで、苦しんでいたんだろう。私は何の為にここにいる?この手は…誰のためにここにあると思うんだ?」
土門少尉は少し怒っているようだ。
「ご、ごめんなさい」
「いや。マリコさんに怒っているわけではない。自分の不甲斐なさが許せない。誰よりも大切な人を守ることすらできないとは…」
「しょう…い?」
聞き逃がすはずがない。
でも、マリコはもう一度確かめたかった。
「大切な人…って、わたし?」
「あなた以外にいない。私の生涯でただ一人…あなた一人だけだ」
「少尉!!!」
マリコは土門少尉の胸にすがりついた。
「私も。私もあなただけです…」
マリコは土門少尉の首に腕を回した。
瞳を閉じて、その時を待つ。
けれど、期待した感触はいつまでたってもおとずれない。
「?」
マリコが目を開けると、そこには微笑む土門少尉がいた。
「マリコさん、あなたからして欲しい」
初めてかもしれない、少尉からのリクエスト。
そんな風に求められることが新鮮で、マリコは嬉しさに胸が一杯になった。
「大好き…」
溢れる気持ちを少しでも伝えたくて、何度も啄むように少尉の唇に触れる。
「…ふ、はぁ………んっ……」
やがて深まる口づけに、マリコの息は乱れていった。