other half



翌朝、射し込む陽の光にマリコは目を覚ました。

「おはよう、マリコさん」

今日最初に耳にしたのは、マリコが大好きな声。
それが嬉しくて、せつない感情が溢れ出す。
マリコは自分でも意図せず、ポロリと涙を零した。

「マリコさん!?…もしかしてどこか体が痛むのか?」

問われた意味を悟り、顔を赤くしながらもマリコは首を振った。

「違います。あの。私…、嬉しくて」

「ん?」

「土門少尉の『おはよう』って声、とても…その、好きなんです。時々じゃなくて、毎日聞けたらいいのに…」

土門少尉はマリコの言葉を優しい笑顔で聞いていた。
その表情にマリコは見惚れ、急にそわそわしだす。

「ご、ごめんなさい。変なことを言って」

これではまるで逆プロポーズのようだと、マリコは穴があったら入りたい。

しかし土門少尉の方はそんなマリコが愛おしくて仕方ない。
たおやかな腰のラインに手を滑らせ、その身を抱き寄せた。

「何度だって言ってあげよう。マリコさん、おはよう……」

鼻先がぶつかりそうな程に近い。

「マリコさんからは?」

「あ…はい。土門少尉、おはようございま………」

言葉を紡ぐはずだった唇は、土門少尉に塞がれる。
何度も。
何度も。
口づけの雨は、しばらく降り続いた。



自分が望んだこととはいえ、やはり朝帰りは気が引ける。
マリコは送ってれるという少尉の申し出を断った。

「本当に大丈夫か?」

「はい。また……来てもいいですか?」

「もちろん。いつでも」

「土門少尉、さようなら」

「気をつけて。また」

「はい。また…」

『また』という約束が何より嬉しい。
マリコは小さな笑みを見せると、土門家を後にした。


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