other half



それから丸山にあちこち連れ回されたマリコは、随分と空が暗んでから帰宅した。

「丸山くん、娘がお世話になりました」

「いいえ。マリコさんと過ごす時間は楽しくて、少々遅くなってしまいました。申し訳ありません」

「いや。君と一緒なら、私も安心だよ」

「ありがとうございます。それでは私はこれで。マリコさん、またドライブにつき合ってくださいね」

「……………」

マリコは疲労から引きつったような笑みを返すのが精一杯だ。

「マリコ。丸山くんをお見送りしなさい」

「いえ、それには及びません。マリコさんもお疲れでしょう。ここで失礼します」

丸山はマリコに手をふると、車に乗り込み、騒音を響かせて帰って行った。



家に入ると、伊知郎は今日のことを色々と聞きたそうな素振りを見せたが、マリコは無言で自室に籠もった。

靴下を脱ぐと、やはり靴ずれが出来、血が滲んでいた。
マリコはその様子を見て、じわっと涙が湧き上がるのを感じた。
これから、どうなるのだろう。
不安の種はマリコの胸のうちでどんどんと成長していく。

土門少尉に会いたい。
声が聞きたい。
傍に………いたい。

その夜、マリコは泣きながら眠りについた。



次の休日も、マリコは丸山に誘われた。

実は初詣の後、土門少尉は他の駐屯地からの協力要請で、北の地へ赴いていた。

今、土門少尉は東京にいない。

仕方なくマリコは父の顔を立て、丸山につき合うことにした。
すると今度は芝居に連れて行かれた。
「婦女子なら好みだろう」という丸山の思い込みで、男女の恋模様を描いた物語だった。

ところが、マリコにしてみれば…。

「好き嫌いだけの噺の何が面白いのかしら?」

幸い、丸山にマリコの呟きは聞こえなかったようだ。
なぜなら、丸山は鼻をすすり、目を潤ませながら物語に熱中していた。

マリコは小さく嘆息すると、肘をつき、幕が降りるのを待った。


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