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「はぁ・・・。」

「どうした、ため息なんかついて。」

研究室のデスクでひとつ小さなため息をついたマリコ。その隣にいつの間にやら佇んでいた刑事は、心配そうに彼女を覗き込む。

「今回の事件のことか?」

「うん。被害者の奥さんにね、『ありがとうございました』って言われながら手を握られたの。だからね、『いえ、私は自分の仕事をしただけなんです』って言おうとしたの。」

「ああ。」

「そしたらね、『こちらが知りたくもなかったことを貴女のせいで知ることになった。貴女は自分の仕事をすればいいとしか思ってない、心の冷たいひとなのね。貴女の冷えた手が、何よりもそれを証明しているわ。』って目を真っ赤にして言われてね。どう答えていいか分からなくなっちゃって。」

乾いた笑いを浮かべながら、自分の手の平を見つめるマリコ。心なしか声が震え、その手は雪のようにいっそう白くなっていた。

―ぽたり、とその手の平に滴が落ちる。

すると、滴を奪い取るようににごつごつして節くれだった大きな手がマリコの手に重ねられた。

「土門さん?」

「俺は知ってる。」

土門の声にマリコが顔を上げると、優しい瞳が彼女を見つめていた。

「え?」

「俺は知っている。お前が誰よりも優しい人間であることを。誰よりも人の痛みを感じられる、心があたたかい人間だということを。」

「でもね、ちゃんと研究結果があるのよ。心のあたたかいひとは手もあたたかいって。土門さんもそう。でもわたしはー」

―そのつづきの言葉は、重ねられたくちびるに吸い込まれていった。



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