100番さまへ




AM 9:00

並んで廊下を歩いていたマリコが、それに気づいた。
「土門さん、靴紐ほどけてるわよ」
「ん?ああ」
土門はその場にしゃがみこんで、結び直す。
「よし、待たせたな。行くか」

PM 3:00

「マリコさん、襟のボウタイほどけそうですよ」
タイの片方が長く伸びて、白衣からはみ出していることに亜美が気づいた。

試薬がつくと汚れちゃいますよー、と結び直してくれる。
「一度かた結びをしておきますね。その方がほどけにくくなると思うんで」
「ありがとう、亜美ちゃん」

PM 11:00

「榊……」
土門がマリコの髪を優しく撫でながら、額、目尻、頬と順に口づけを下ろしていく。
そしてようやくマリコの唇へと辿りつく。

同時に髪を撫でていた手をマリコの首もとに這わせ、襟のボウタイを引っ張る。
蝶々結びがするりとほどける……が。
その下からかた結びが現れた。

「ん?固いな……」
小さな結び目は土門の太い指ではなかなかほぐれていかない。

「……くそっ、ほどけん!」

――― このブラウス、後ろにボタンがあるんだけど……。
――― 必死な土門さんなんてなかなか見れないから、しばらく黙ってようかしら?……ふふっ。




fin.



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