野生の同盟
「信じられない!」
マリコは、ご立腹だ。
「恥ずかしくて、もうお店に行かれないじゃない!」
「そうか?」
「そうよ!土門さんのバカ!」
土門は耳をふさぎ、マリコの不満台風が過ぎ去るのを待った。
ここはマリコの部屋のソファの上。
二人は『microscope』を後にして、そのままマリコのマンションへ戻ってきたのだ。
二人で並んで座る…というより、マリコが土門に詰め寄り、文句をまくし立てている状況だ。
「あの場では、ああして牽制しておく必要があったんだ。仕方ないだろう」
「牽制?何のこと?」
土門は肩の力が抜けた。
もしや…とは思っていたが、ここまできてもまだ気づいていないのか?
「榊、お前…あの小僧とこそこそ会っていたらしいな?」
土門は店を出る前、スバルに口を割らせたのだ。
勉強と銘打ったデートについて。
「こそこそ…って、勉強を教えてあげていただけよ?」
「なぜ俺に言わなかった?」
「え?だってそれは………」
『おや?』っと土門は眉をあげた。
マリコは目を伏せ、土門の顔を見ようとしない。
土門は逃がさぬようにマリコの頬を両手で包んだ。
「続きを言ってみろ。それは、何だ?」
「誤解されたくなかったの!」
「ん?」
「スバルくんとのこと。土門さんに」
「ほう…。俺が誤解するかもしれないと分かっていて、あいつと二人で会っていたわけか?」
「だって本当に勉強していただけだもの」
「お前は甘いな…」
だから目が離せないんだ、と土門は苦笑するしかない。
それでも、一つ。
収穫がありそうだ。
「ところで、どうして俺に誤解されたくなかったんだ?」
「え?」
「ん?」
「えっと…」
「何だ?はっきり言え」
「それはね、土門さんが…」
「俺が?」
「……………もう!わかってるくせに。いじわるっ!」
マリコは土門の手の中で目を瞑り、
「“いじわる”はお前だろう。あいつと会っていたことを俺に秘密にして」
「そんなつもりないわ」
「じゃあ、どんなつもりだ?」
「だから、それは!」
「それは?何だ、言ってみろ!」
間髪入れずに強い口調で問いただす土門に、マリコは言葉に詰まる。
「なによ…。そんな風に怒らなくても……」
もう何を言い合っているのかさえ分からなくなり、マリコは泣きたくなった。
「……ばか」
土門は、ふっと笑う。
「怒っているわけないだろ」
「それじゃあ、どうして?どうして、いじわる……するの?」
ふいに見せる頼りなげな表情。
土門は、天を仰いだ。
これは…土門が一本取られた形だ。
「まったく!無自覚なだけにタチが悪いぞ、お前は!」
呆れた顔をしながらも、土門の唇はマリコのそれを優しく啄む。
「土門さん?」
「お前に惚れてるからに決まってるだろう?だから、俺はお前が他の男といるのが気に食わん」
照れ隠しなのか、憮然とした顔の土門。
マリコは首をかしげ…。
「私が土門さん以外の人を好きになったりするわけないのに…」
その言葉に何の含みもない。
マリコは思ったことを正直に口にしただけだ。
だからこそ。
思わず土門は息を飲んだ。
なんて。
最上級な告白。
「榊。明日は早いのか?」
「え?いつも通りよ」
「なぜ?」と聞こうと開いた口は、すぐさま塞がれた。
「そんな煽るようなことを言われたら…。今夜は眠らせない」
「え?え?」
意味が飲み込めず焦るマリコを笑いながら、土門はその服を