紅葉伝説殺人事件
捜査会議の席で、千津川は土門を捜査一課の面々に紹介した。
簡単な挨拶を終えると、すぐに情報の吸い上げが始まる。
マリコの指摘のおかげで、少しずつ事件は繋がりつつあった。
「これは一つの仮説ですが…」
鶴井は静かに語りだした。
「この事件はピラミッド型に例えられると思います。頂点は須藤組。その下はおそらく3番目の被害者、須藤組構成員の稲葉でしょう。そしてその下に図書館司書の赤城。そこから1番目、2番目の被害者。そして恐らくは10代、20代の若者へと裾野は広がっていく。その構造はまるで…」
「薬物の販路、そのものだな……」
「はい。教師ならば生徒へ。スーパーの店員なら客やアルバイト店員など売りさばく相手には困らんでしょう」
「それだけではないでしょう。例えば素行不良の生徒を仲間に引き入れたり、女生徒には薬物使用をネタに売春を斡旋したり。スーパーなら万引き犯を見逃す代わりに…など、我々の想像以上に薬物汚染は広がっているかもしれません」
「信じたくはないが、土門さんの話も十分にあり得る。どうやら…いちど本丸を拝む必要がありそうだ」
「お供しましょう。須藤組長とは面識があります」
「助かります」
土門と千津川は視線で頷き合った。
そうと決まれば、千津川は明日以降の捜査スケジュールについて部下と話し合いを始めた。
「土門さん。私と母さんたちはどうなるの?」
「今回は長野で待っていろ。筋道は見えても、実行犯はわかっていないんだ。相手が須藤組なら俺達とは別行動のほうが安全だ。それに、またすぐに戻ってくるさ」
「分かったわ」
「いいか?くれぐれも勝手に動くなよ。お袋さんたちを危険な目に遭わせたくないだろう」
「わかってる!」
しつこい、とマリコの返事はやや尖る。
土門はそんなマリコに苦笑しつつ…。
「お前がお袋さんを心配するように、俺はお前が心配なんだ。少しは分かれよ…男ゴコロってやつをな!」
マリコは瞼をパチパチ動かすと、今度はおとなしく頷いた。
「土門さん」
「うん?」
「気をつけてね」
「ああ」
今度こそ、土門は笑顔を見せた。