紅葉伝説殺人事件



いずみと川村をホテルへ帰すと、マリコ、土門、千津川、鶴井の4人は戸隠中央図書館へ向かった。

責任者へ来訪の意図を伝えると、すぐに市内の在庫状況を調べてくれた。

「こちらの本は、戸隠市では全部で3冊保有しています。しかし…変ですね」

「なにか?」

責任者はPCの在庫画面を何度も確認する。

「3冊全て同じ人物に貸し出し中になっています。それも長期対応だ…」

マリコと千津川が覗き込むと、貸出主の欄には富士川の名前が打ち込まれていた。

「この貸出対応をされたのは、どなたですか?」

「ええと待ってください。この社員コードを調べれば…と。分かりました、赤城くんですね」

「その赤城さん、今日は?」

「そういえば、頭痛がするから休むと今朝連絡がありました」

「赤城さんの住所、教えてください!」

履歴書の住所へ急行すると、鶴井がアパートの呼び鈴を鳴らす。
しかし中から返事はない。
万一を考え、大家から合鍵を預かると、千津川は赤城の部屋へ踏みこんだ。

「これはっ!」

カーテンと窓を閉め切った部屋の中で、赤城は俯いたまま座り込んでいた。
続いて部屋に入った土門が肩を揺すると、焦点が定まらぬ濁った目がこちらを向いた。

「覚醒剤か?」

まさか警察が踏み込むなど予想していなかったのだろう。
使い終えた注射器の類が、無造作にゴミ箱へ捨てられていた。

「鶴さん。応援をお願いします。こいつをいったん署の方へ」

「分かりました」

鶴井は慌ただしく、部屋を出ていった。

「千津川さん、これを」

土門はソファの下から箱を見つけた。
中には小分けにされた白い粉末の袋が詰まっている。

「こんなに…。もしかして、赤城は売人だったのか?」

「榊!」

土門は部屋の外で待機しているマリコを呼んだ。

「榊、簡易キット持ってるか?」

白い粉末に目ざとく気づいたマリコは、バッグから小さなケースを取り出す。

手袋をはめると、ジップを開けた袋から少量の粉末を取り出し、キットの液に浸した。
しばらく待ち、軽く液体を振ると、無色透明から鮮やかな青に変化した。

「間違いないわ」

「赤城がまともに話せるようになったら、少しばかり締め上げる必要がありそうだな」

「土門さん!」

隣の部屋から千津川の興奮した声がした。

土門とマリコは千津川のもとに駆け寄る。

「どうしました?」

「これ、見てください」

それは赤城のスマホに保存された写真だった。
数枚の写真はどれも3人目の被害者、稲葉と赤城が親しげに写っていた。

「赤城は稲葉と知り合いだったのか…」

問題はそれだけではない。
土門は画像を引き伸ばし、背景を確認した。

「この写真、京都の須藤組で撮ったもののようですね。小さく影になっているが、この人物」

「女性ですか?」

「ええ。須藤組長の片腕で、愛人イロですよ」

「繋がってきましたね。一度署へ戻って捜査会議にしましょう。土門さんのことも、皆に紹介しなくては」

「あ!そうよ。土門さん、よく来れたわねえ」

「榊………………それ、今か?」

事件の急展開に高揚していた土門は一気に脱力する。
しかし、もう慣れっこな土門は。

「千津川警部が呼んでくれたんだ」

そう言いながら、ポンとマリコの髪にかるく触れた。

「それじゃあ、ここで捜査できるのね?」

「ああ」

微笑み合う二人から、千津川はそっと離れた。

あの二人は、なかなかいいコンビのようだ。
もっとも…土門警部補は苦労しそうだが。

さすがは、県警の警部殿である。
その観察眼はおそらく…警視庁捜査一課の警部に勝るとも劣らないだろう。


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