紅葉伝説殺人事件
同じころ、京都府警では。
「部長、お呼びですか?」
「土門。今朝がた長野で
「須藤組の?誰ですか?」
須藤組は京都に根城を構える反社会組織だ。
その歴史は古く、京都府警とは過去幾度となくぶつかり合っている。
「稲葉珀人という末端のチンピラのようだ。俺も名前を聞いたことがない」
「そうですか。あの、長野のどこで?」
「戸隠だそうだ」
「戸隠!?」
土門の声が上ずる。
「そうだ。どうかしたのか?」
「……いえ」
マリコたちの現状どうなっているのかを知らない土門は、迂闊なことは言わないほうがいいと判断した。
ところが。
「榊の母親のことか?」
「部長!?」
どうやら藤倉の方が一枚上手だったようだ。
「……………あの!」
しばらく難しい顔をしていた土門だったが、意を決して藤倉を見た。
「必要ない」
まだ土門は何も言っていないのに、答えが返ってきた。
「部長?」
「前のように有給申請は必要ない」
「え?」
「長野県警から正式に捜査協力要請があった。それも土門、お前を指名してきた」
「自分を、ですか?」
「そうだ。長野中央署の千津川という警部の推薦らしい。知り合いか?」
「榊の母親の事件を担当している警部ですね。先日会いました」
「なるほど。土門、お前は戸隠に向かえ」
「はい!」
「だが、蒲原はダメだぞ」
藤倉は釘を刺す。
「あいつは京都に残して、連絡係とこちらでの捜査にあたらせろ」
「わかりました」
土門の返事を聞くと、藤倉は背中を向けた。
話は終わり…ということだろうか。
しかし。
「……………土門」
絞り出すような声に続けて。
「榊を頼むぞ」
「……………」
土門は固く唇を引き結ぶと、黙礼の後、部長室を出ていった。