ただひとり、貴方だけ
ホームレス殺人事件の残りの犯人が廃屋に立て籠ったという連絡に、土門たち一課と科捜研も現場に駆けつけた。
「立て籠っているのは何人だ?」
「鉄パイプを所持していた男を含め、残りの3人です」
土門が覆面のボンネットに簡単な見取図を広げる。
「まずは出入口と中の構造確認だな…。お前たちは出入口の数と場所を確認しろ」
「はい!」
土門の指示に捜査員たちが慌ただしく動き始める。
「榊!中の様子を調べられるか?」
「サーモグラフィーカメラで熱源を追ってるわ。宇佐見さん!」
呼ばれた宇佐見が、モニターを土門に向ける。
画面には室内の輪郭がモノクロで映し出され、中にいる人間の数と位置が色で表示されている。
「人数は3人で間違いないわね。全員同じ部屋に固まっているわ」
「よし!出入口はどうだ?」
「正面と裏の2ヵ所だけです!」
必要最低限の情報を手にいれると、土門は警棒を取りだした。
「踏み込むぞ。半分は正面、残りは裏口に待機だ!」
「「「はい!」」」
捜査員たちが持ち場へと散っていく。
「……土門刑事、自分は?」
みやびの顔色は恐怖と緊張で蒼白になっていた。
「お前は科捜研と待機だ、いいな?」
「はい」
マリコら科捜研メンバーとみやびは、車内で屋内の動きを監視しつつ待機を続けている。
土門と蒲原が正面入口に立つ。
無線で、全ての配置完了の連絡が土門の耳に届いた。
「………」
蒲原に目で合図を送ると、土門は入口の扉を蹴り開けた。
一斉に捜査員が室内に雪崩れ込む。
『大人しくしろ!』、『何だテメーら!』、『ぶっ殺す!』と怒号が飛び交い、金属同士のぶつかる音や、落下音、窓ガラスが割れる音が次々に聞こえる。
モニターを見ていた宇佐見が、窓ガラスを割って外に逃亡する男に気づいた。
「土門さん!男が1名、窓から逃走しました!」
『宇佐見さん?何ですか?』
周囲の騒音が邪魔をして、土門の耳に無線が届かない。
その様子を見たマリコが動いた。
「マリコさん!危険です!!」
宇佐見が止める間もなく、マリコは車外へ出て犯人を追う。
「ちょっと!土門刑事の指示に逆らう気なの!?」
そんなマリコを追って、みやびまでが車外へ飛び出した。
「土門さん!聞こえますか?土門さん!!マリコさんと浅野さんが逃走犯1名を追って車外に!!」
『なにっ!?』
「逃走犯は棒状のものを携帯していました。鉄パイプかもしれません!」
『……分かりました。自分が向かいます。宇佐見さんは蒲原のフォローをお願いします!』
一瞬の空白の後、土門はこの場を宇佐見と蒲原に任せ、マリコ達のもとへ向かう決断をした。
無線の向こうでは、土門が蒲原の名前を怒鳴っているのが聞こえる。
「マリコさん、浅野さん、無事でいて下さい…」
宇佐見は自身が動けない歯がゆさに、拳を膝に打ち付けた。