ここは科捜研、マリコの研究室。
マリコは先程から電子顕微鏡とパソコンの画面を忙しなく行ったり来たりしている。
その隣では土門がデスクの端に腰掛けて、しきりとマリコに話かけていた。

「なぁ。何でだめなんだ？理由を聞かせろ、理由を」

「特に理由なんてないわよ。何でそんなにこだわるのか、私の方が聞きたいくらいよ。別に今のままで何も不便はないじゃない」

「不便とかって問題じゃない！」

「じゃあ、どんな問題？」

「それはだなぁ…」

「それは？」

「その…なんだ。そうだ、気分だ！気分の問題だ！」

「気分ねぇ…」

はぁとマリコはこれみよがしに溜息をつく。

「なんだよ。悪いか？」

「別に。とにかくこの問題はここまで」

「何いってんだ。まだ解決してないだろう？」

「それより大事な問題が発生してるのよ。ほら」

マリコからプリントしたばかりの資料を渡され、土門の目つきが変わる。

「もう片方も結果が出たらすぐに教えてくれ」

「わかったわ」

「それと！」

部屋を出ていこうとした土門は、くるりと振り返る。

「さっきの問題の続きはまた後で、だ」

さらに何言か吐き捨てて、パタンとドアは閉まった。

「土門さん…何でそんなにこだわるのかしら？」



さて同じ頃。
たまたまパブリックスペースで、宇佐見と亜美が鑑定の進捗具合について話し合っていた。

時々、マリコの部屋から土門の声が漏れ聞こえる。
何か言い争いをしているようだ。

「マリコさんと土門さん、ケンカかな？」

「仕事のことでしょうかね？」

「でも、まだ鑑定結果は出ていないってマリコさんは言ってましたよ」

「それでは、ケンカするような問題もありませんね…」

「もしかして、マリコさんの服のことでケンカしてたりして」

「どういう意味ですか？」

「最近のマリコさん、モノトーンコーデが多いじゃないですか？土門さんとしては、前みたいに自分のネクタイとリンクコーデにして欲しいのかも」

「まさか。土門さんはいい大人の男性ですよ」

「そうですよね。まさかね」

二人の会話を遮るように、マリコの部屋のドアが開き、土門が出てきた。
慌てた様子で、二人への挨拶もそこそこに去っていく。


続いて、今度はマリコが姿を見せた。
疲れた様子で、肩をぐるぐる回している。

「マリコさん。私も手伝いましょうか？」

「あ、いいえ。大丈夫です」

「でも、お疲れなのでは？」

宇佐見は、鑑定が大変なのだろうと予想したのだ。

「疲れているのは土門さんのせいです」

「土門さんとケンカしたんですか？」

亜美も会話に加わる。

「私たちでよかったら、話を聞きますよ」

「でも…。いい、ですか？」

「もちろんです」

「実は…」

斯々然々と、マリコはここまでの経緯を説明した。

「は？」
「え？」

二人は口をあんぐり開けて、マリコを見ている。

「別にどっちでもいいと思いませんか？パジャマなんてお揃いだろうが、別々だろうが」

「「あの…」」

「おまけに『絶対にお揃いを着るというまで、一生かけてでも口説き落とす』なんて啖呵切って帰って行ったんです。もう、子どもみたい…」

『いや、それはどっちもどっちでしょう』
…とも言えず、宇佐見と亜美は顔を見合わせ苦笑する。

「マリコさん。いいじゃないですか、お揃い」

「亜美ちゃん？」

「外でお揃いはちょっと考えちゃうけど、パジャマなら私は全然ありですよー」

「そう…かしら？」

「私もパジャマはありですね」

「「え？」」

「何か？」

意外な答えに、今度はマリコと亜美が顔を見合わせる。
でも…と、二人に話したことで、マリコにも心境の変化があったようだ。

「確かに、外でお揃いの服を着るのに比べたら、パジャマくらい…ね。うん。後で土門さんに伝えるわ」

これで丸く収まったと、宇佐見も亜美も、犬も食わないケンカの決着にホッとした。

ところが…。


「土門さんが『お揃いのパジャマを着よう』って言ったんじゃないの！」

「後でな。後で」

「後でって…いつ？」

「んー？そうだな…明日の朝、か？」

マリコはお揃いのパジャマを着る前に、バスタオル一枚の姿のまま寝室へ連れ去られたのだった。

ちなみに。
ブルーとピンクのお揃いパジャマは、あと数日はパリッと糊のきいたままタンスに仕舞われていたそうな❤



fin.