「うぉーーーーい！はしぐちっ！！！」

凄まじい怒声と共に現れた猟犬…今日は、犬というより狼か？

「な、な、なに？土門さん」

「なに？じゃない。なんだこれは！」

土門は一枚のチラシを呂太のデスクに叩きつけた。
そこには、マリコに関するあるアンケートが記されていた。

「あ、これ。この前生活安全課の女の子たちと話してたらさ、マリコさんて署内に隠れファンが多いんだってー。土門さん、知ってた？」

よーく知っている、とも言えず、土門は苦い顔をする。

「それでね、実際どのくらいのファンがいるのかを調査して、本当に沢山いるならファンクラブ作っちゃおっかな♪て思ったんだ。会報とかブロマイドとか…」

「そんなもん売ってどうするんだ」

「もちろん、科捜研の経費に充てるんだよ（あとは僕のおやつ💕）」

意外にも真面目な答えに、土門は怒りを削がれた。

「榊は？承知してるのか？」

「まだ話してないよ。でもさ、見てよ。この結果」

呂太のPCにはこれまでの集計結果が表示されていた。

さて、何のアンケートだったかというと…。


💕榊マリコとデートしたい人💕
【男性】74人
【女性】1人
　

「まだ半分くらいしか回収してないんだけど、もう74人もいるなんて、マリコさんモテるよね。女の人もだよ」

土門はこの結果に青ざめる。

「科捜研の経費を一番食いつぶしてるのはマリコさんだからねー。これを見たらマリコさんもOKするんじゃないかなぁ♪」

「……………」

確かにそこを突かれれば、マリコはファンクラブの設立も認めてしまうかもしれない。
しかしそんなことになれば、これまで土門が血の滲むような努力ではたき落としてきたライバルたちを復活させることになる。

それは絶対に避けたい…。
しかしどうすればいいのか。
土門はぐっと拳を握りしめた。

「橋口…」

「ちょっと呂太くん！」

そこへ割って入ってきたのは話題の主だ。

「なあに、これ？」

どこから手に入れたのか、マリコもチラシを手にしていた。

「えっとぉ…」

「本人に無断でこういうことしていいのかな？」

マリコビーム発動中。

「そ、それは………ごめんなさぁい」

呂太は素直に非を認めた。

「でもマリコさんとデートしたい男の人、こんなに沢山いるんだよ。ファンクラブとか作ったら、絶対に儲かる…じゃなくて、ええと…」

しどろもどろな呂太には目もくれず、マリコは土門を見ていた。

「土門さん、来てたのね。鑑定？」

「いや…」

土門は慌ててチラシを背中に隠した。

「それにしても、榊。お前、モテるんだなぁ」

明らかに棒読みのセリフ。
マリコはぷっと吹き出した。

「あいにくだけど、私、デートする人はもう決まっているから」

さらりと爆弾を落としたマリコに、呂太が目を丸くした。

「え？そうなの？誰？ね、マリコさん、誰？？」

「ヒミツよ」

ふふっと笑うと、マリコは自分のラボに戻ってしまった。

「橋口。このアンケートはもうやめろ。榊に迷惑だぞ。わかったな！」

「うん……」

マリコに恋人の影を感じ取った呂太は渋々頷いた。
相手がいては、ファンクラブは難しいかもしれない。

「いいアイデアだと思ったのになぁ。それにしても誰なんだろう。マリコさんのデート相手…」

呂太は肩を落とすと、チュッパチャップスを頬張った。




背後でノックの音が響いた。
マリコは顕微鏡を覗き込んだまま「どうぞ」とだけ答えた。
すると扉の向こうから現れたのは土門だぅた。

「あら？ノックするなんて珍しいわね」

「聞きたいことがある」

「なあに？」

「お前がデートする相手って誰だ？」

土門は直球ストレート勝負を挑んだ。

「……知りたいの？」

「ああ」

「おばんざい、お寿司、焼肉、お蕎麦、それと…羽多野さんのお店のフランス料理」

「？」

「これまでのデートで食べた料理よ」

「お前…」

「さあ、わかったら帰って。まだ鑑定が残ってる………て、土門さん！？」

土門は顕微鏡に向き直るマリコの椅子をくるりと反転させた。

「今夜は何が食べたい？」

「土門さんは？」

「ん？」

「たまには土門さんの食べたいものにしましょうよ」

「いいのか？」

「ええ」

「それならもう決まってる。もう何年もずっと食べたいと思っていたものがあるんだ」

「え？そんなものあったの？何かしら？」

「これだ」

ちゅっ♡と小さな音が鳴る。

「前菜の続きは今夜だな…」


その晩、フルコースをきっちり食べ終えた土門は、翌日たいそうご機嫌だったそうな。
めでたし、めでたし(笑)



fin.