「ただいま」

「ん！」

「な、なに？」

「だから、んっ！」

「ど、土門さん？いったいどうしたの？」

玄関を開けたマリコは、唇を尖らせ迫る土門の出迎えに驚き、思わず後ずさる。

「見ればわかるだろう？強請っているんだ」

「な、なにを？」

「もちろん、ただいまのキス」

「き、き、き、きすぅ！？」

「…………そんなに驚くことか？」

「興冷めした」と土門は手にしていたお玉を振り回しながら、キッチンへ戻っていった。


「……………」

マリコはその後ろ姿を見ながら、少しだけ後悔した。
別にマリコは土門とキスするのが嫌なわけじゃない。
いや、むしろ好きだ。
土門のぽてっとした唇は柔らかくて、何回も触れ合っていると気持ちがよくて、マリコは蕩けそうになる。

「だけど、何か違うのよねぇ…」

どうにもしっくりこないのだ。
マリコはしきりと首をかしげては考え込む。

「おい、飯の支度を手伝え」と土門に呼ばれ、マリコは自分のエプロンを手にキッチンへ向う。

「あっ！そうか！！」



「土門さん！」

「お、来たか。その皿を並べて…って何だ？」

マリコはエプロン姿で背伸びをし、土門の顔を見つめ、目を閉じた。

「なんの真似だ？」

「キスしてくれるかな、と思って」

「俺とはキスしたくないんじゃないのか？」

「そんなこと言ってないでしょう。でも、私からするより、土門さんからのほうが、何となくしっくりくる感じがしない？」

「どっちだって変わらんだろうが」

「そんなことないわ。だって私…」

「なんだ？」

「やっぱりして貰うほうが好きなんだもん」

「…………」

「だもん、じゃねぇ…」と土門は赤い顔を必死に逸らす。

「あ、でも。土門さんもしてもらいたい時…ある？」

「ああ、もう！」と土門はマリコを掻っ攫う。

「ある！キス以外にも色々な」

さて、何をしてもらおうか。
無垢なエプロン天使を汚してしまうのは忍びないが、土門の下半身は食事よりも先に準備が整ってしまったようだ。



fin.