「…………………………」

この状況はハッキリ言って色々とヤバい。
土門は速くなる鼓動と、沸騰しそうな血液を必死に鎮めようと何度も息を吐く。

何がそんなにヤバいのか…１つは雷だ。
バリバリとものすごい音と稲光が先程から続いている。
そしてもう１つは停電。
恐らくどこか…変電所か電線かに落雷があったのだろう。ふっと部屋の灯りが落ちた。
そして、最後の１つ。
この腕の中の代物（シロモノ）が、土門にとって一番の問題だった。




「おい、大丈夫か？」

突然の停電に、心配した土門がマリコに声をかけた。

「びっくりしたわ」

マリコは雷や暗闇が苦手という訳ではない。原理を理解していれば、恐怖を感じることもない。
ただ、今このときの停電は話が別だ。
彼女はシャワーを浴びようと、洗面所で支度を始めたところだったのだ。

「突然停電する……キャッ！」

再びの轟音がマリコの言葉を遮る。
驚いたマリコは暗闇の中、手探りで土門に飛びついた。

「……………」

土門には自分の心臓の音が雷より煩く聞こえる。体温が上昇し、じわじわと汗ばんでくる。
なぜならマリコが土門の胸に頬を寄せているからだ。
それも下着姿で。
闇夜の中でも、いや、闇夜だからこそ、その白い肌はいっそう際立つ。
そして視界が効かない分、土門は嗅覚や触覚が冴えわたり、マリコの甘い香りや温かく柔らかな肉感を否が応でも感じてしまう。

ゴグリと土門が喉を鳴らしたそのとき、ようやく電気が復旧した。

「あ、ついたわ」

「よかったな。さっさとシャワーへ行って来い」

「うん…。ねえ、土門さん。暑いの？」

マリコは汗の滲んだ土門の額に触れた。

「土門さんもシャワーを浴びたら？」

もちろん「先に」という意味を込めた言葉だったが、土門の脳内は自己都合で変換した。

「ああ。そうさせてもらうかな」

「ええ、どうぞ…って、な、なに？」

さっさと自分の服を脱ぎ捨てると、手早く彼女の下着も剥ぎ取る。

「ちょっとー！」

わめく裸体のビーナスを横抱きにして、ダビデはさっそうと浴室へ消えていった。



fin.