樹ダイアリー
鑑定中にマリコの部屋の内線電話が鳴った。
「はい、榊です」
『榊さん。受付に来客の方がみえています』
「分かりました。すぐに行きます」
エレベーターを降りて、エントランスにやってきたマリコは、受付近くに立つ背の高い男性を見つけた。
こちらに背中を向けているため、顔は分からない。
けれど、仕立ての良さそうなスーツに、高級そうなカバンと靴。
所々銀髪の混じった初老の男性は、視線を感じたのか振り返る。
「あの………………!?」
そう言いかけたまま、マリコは何も言えなくなってしまった。
ゆっくりと両手で口を覆う。
そして、マリコ自身も理解できないままに、ただただ涙を流した。
「あれ?マリコさんですね」
外回りから戻った土門と蒲原は、受付に立ち尽くすマリコに気づいた。
「土門さん!」
蒲原はマリコの様子を見て、上司の名前を鋭く呼んだ。
呼ばれた土門も、険しい表情でマリコを見ている。
そして、遠目からでもマリコの頬を流れるものを見てとると、土門は大股で彼女に近づいた。
「榊!」
土門はマリコと男の間に立ちはだかる。
「土門…さん」
「どうした?何があった?」
「ども……………」
マリコはこみ上げる嗚咽で、その先の言葉が出ない。
「おい、あんた!こいつに何をした!?」
土門は一歩近づくと、初老の男を睨みつけた。
男は土門と同じくらいの上背があり、まともに二人の視線がぶつかった。
「私は何も。榊さんとは初対面ですよ」
「そんなこと、信じられるか!」
「榊さんに聞いてご覧なさい」
土門はマリコを振り返る。
するとマリコは尚も涙をポロポロとこぼしながら、それでも頷いた。
「どういうことだ?」
「榊さん。私が誰か、わかりますかな?」
男性はマリコに問う。
マリコは、ぐっと涙と嗚咽を飲み込んだ。
「あなた、は…。
「双子の弟です」
ポロリ。
最後にただ一粒。
マリコの頬を流れていった。
1/12ページ