3年目の浮気?
土門がさっきの女性とホテルから出てきた。
呂太からもたらされたその情報は、マリコを打ちのめした。
何か事情があるに違いない。
見間違い、誤解、……。
自分のいいように考えてみるけれど、ぐるりと巡って、もしかしたら…という思考に戻ってしまう。
二人の交際が公になってからというもの、マリコの中で土門の存在はどんどん大きく膨れ上がっていた。
鑑定をしている最中でも、『土門』という名前が聞こえるだけで、手を止め耳をそばだててしまう。
――――― ダメね…。しっかりしなくちゃ。
マリコは、この機会に原点に立ち返ろうと考えた。
科捜研という職業を選んだ理由。
もちろん、純粋に科学への興味は大きかった。
でもそれだけではない。
マリコはこれまで何人も悲しみに暮れる遺族を見てきたのだ。
「そうよ。私には恋愛よりももっと大きな目的が…。だけど……」
仕事か恋か。
恋愛に不器用なマリコには、どちらかなんて選べない。
『だけど……』、その言葉に続く想い。
マリコは、本当は分かっている。
でもそれを認めてはいけないような気がして。
揺らぐ心のまま、マリコは土門のマンションに向かった。
合鍵は使わず、マリコはインターフォンを押す。
「はぁ〜い」
「……………」
聞こえてきたその声に、マリコは一縷の望みを絶たれた。
「どちらさ、ま…。あら?あなた………」
「科捜研の榊といいます」
「昼間、薫さんと一緒にいた人よね?」
『薫さん』。
――――― ズキン。
マリコの胸が痛む。
「…はい。あの、土門さんは?」
「まだお仕事みたーい。早く帰ってこないと、ご飯冷めちゃうのにぃ」
「……………」
「あ、ごめんなさぁい。何か薫さんにご用ですか?」
「…………………………あの!」
「マリコさん!」
マリコが意を決したとき、背後から懐かしい声に名前を呼ばれた。
「美貴ちゃん!」
振り返ったマリコは一瞬今の状況を忘れて、嬉しそうに微笑んだ。
「マリコさん、お久しぶりで………あれ?」
美貴はマリコの背後にいる女性に気づくと、途端に眉を潜めた。
さすが、兄妹。
反応はよく似ている。
「あ、あの。私、失礼しまぁーす」
そそくさと玄関を閉めようとした瞬間、マリコを追い越した美貴の足が素早くそれを阻止した。
「ちょっと真由美!あなた何でここにいるの!?」
「美貴。えっと、これはねぇ………」
「美貴ちゃん、知り合いなの?」
「彼女は中学、高校の同級生で……」
美貴は真由美を見て、マリコを見る。
ピン!と何かを察したようだ。
「真由美!あなた、何かややこしいことしてないでしょうね?お兄ちゃんはどこ?」
「薫さんなら、まだ仕事よ」
「『薫さん』!?まーゆーみー💢」
美貴は額に青筋を立てると、バッグからスマホ引っ張り出す。
すぐに耳に当てると、相手の応答を待った。
「もしもし、お兄ちゃん!すぐに帰ってきて!え?そうよ、今京都に着いたの。なに?…そんなこと、明日でいいでしょ!いいから、今すぐに帰ってきて!!」
一通り怒鳴った後で、美貴は声を潜める。
「マリコさん、来てるから…。お兄ちゃん、帰ってきたほうがいいよ……」