変身
分厚い扉の向こうでは、夏の太陽がジリジリと照りつけ、耳を塞ぎたくなる程のセミの合唱が聞こえているだろう。
そんな外界とは対象的に、空調の効いた開店前の静かな
そして七色に煌めく瞳を閉じると、優雅に昼寝を始めた。
「オパール!」
「……………」
「オパール!!」
『せっかくの昼寝を邪魔するのは誰だ?』と不機嫌そうにうっすら目を開けたオパールは。
「ニャッ!?」
驚きに、思わず鳴き声を上げてしまった。
目の前にいたのは、オパールの大好きな人間、マリコ……のはずだ。
しかし、マリコの頭にはオパールとよく似た白い三角の耳がついていた。
しかも、驚きに目の覚めたオパールの瞳には文字が浮かび上がって見えたのだ。
人間の言葉や文字など、当然オパールにはまったく分からない。
けれど勝手にオパールの瞳を通して、情報が頭の中に流れ込んでくる。
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名前:マリコ
毛の色:白
性別:女の子
愛され度:999999999999999999999999
攻撃力:3
特殊能力:モテる
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『何じゃこりゃ?』と軽くパニックに陥るオパールだったが。
マリコの【愛され度】と【特殊能力】に、いやに納得してしまう。
「榊、どうかしたのか?」
低い声とともに、ひょいと新たにオパールの視界に映り込んだのは、ライバル土門。
マリコ同様、土門の頭にも猫耳が生えていた。
そして土門の情報もオパールの瞳スカウターが分析を試みる。
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名前:土門
毛の色:茶色
性別:男の子
愛され度:1000
攻撃力:6
特殊能力:聖剣エクス〇リバーを隠し持っている
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マリコと比較し、土門の【愛され度】の低さに満足したオパールは、あざ笑うかのごとくゴロゴロと喉を鳴らす。
しかし、一点。
【特殊能力】がいくら考えても、オパールにはイマイチよく分からない。
それもそのはずである。
この【特殊能力】の正体が何なのか…?
知っているのは夜ごと身を持って体験しているマリコだけである。
(と、読者さまだけ…ムフ💖(/ω\))
それにしても、一体これはどういうことだろう…。
オパールはひらりと椅子からカウンターへ飛び移る。
すると、マスターの手によって美しく磨き上げられたカクテルグラスに、自分の姿が映った。
瞳スカウターは、オパール自身も分析した。
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名前:オパール
毛の色:灰色
性別:中性
愛され度:96
攻撃力:2
特殊能力:頭脳が優れている
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「ニャッ💢」
『ちょっと待て!』とオパールはしっぽを逆立てる。
【特殊能力】に関しては、適切な分析だ。
しかし、【愛され度】、【攻撃力】ともに土門より劣っているとはどういうことか!?
「フー!💢」
オパールが威嚇の声を上げ、自分の姿が映るグラスへ飛びかかろうとしたとき、視界が暗転した。
「ねえ。オパール…どうしたのかしら?」
「ん?」
「だって時々、怒ったような声で鳴いているのよ」
「寝てるんだろう?」
「ええ…」
「それなら夢でも見ているんじゃないのか?」
猫も夢を見るのだろうか?
「嫌な夢じゃないといいんだけど……」
マリコは心配そうだ。
土門はその様子に苦笑しつつも、カウンターの下でそっとマリコの手を取った。
「そろそろ出ないか?」
「あ。……………うん」
握ったままのマリコの手が、急に熱を帯びる。
もう何度目のやり取りかすら分からない。
それでも毎回初心な反応を示すマリコが、土門には愛しい。
チェックを済ますと、二人は立ち上がる。
「オパール、またね」
そっとマリコが背中を撫でると、カッとオパールが目を開けた。
七色の瞳がライトを反射し、宝石のように輝く。
「オパール?」
オパールの瞳に、マリコが映る。
しかし今のマリコに猫耳はない。
いつも通りの人間の姿だ。
そして瞳も、ただ目の前の光景が見えるだけだ。
「目を覚ましたのか?」
マリコの肩ごしに顔をのぞかせた土門も、これまで通り…だが、それはそれで何か釈然とせず、オパールは土門に向かって威嚇の声を上げた。
「相変わらず、俺は嫌われ者だな」
「そんなことないわよ!ね、オパール」
「……………」
しかしオパールはツーンとそっぽを向いてしまう。
「まあ、いいさ。いくぞ、榊」
土門は先に出口へと足を向ける。
「オパール、今度ゆっくり遊びましょう。またね。…土門さん、待って!」
猫耳と同じ。
白いスカートの裾を揺らしながら、マリコは土門を追いかけた。
その姿を見送り、オパールは再びあくびを漏らす。
やはり、さっきの出来事は夢なのだろう。
「オパール、ご飯ですよ」
目の前に小さな銀の皿が差し出された。
そういえば…。
オパールは主人の顔を見上げる。
『この
不思議そうな顔の飼い猫に、マスターは小さく笑ってみせる。
「知らない方がいいこともあるんですよ……」
そう。
例えば、今夜。
土門の【特殊能力】がどう発揮されるのか?
そんなことは、知らないほうがいいのだ。
……本当は、知りたいところだけれど(*´艸`*)
fin.
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